専門家、初の死者を出した「アラスカ痘ウイルス」を厳重警告

 人々の気分の上では完全に収束したコロナ禍だが、かなり物騒な新型のウイルスによる死亡事例が報告されている。アラスカで新たな人獣共通感染症が流行するかもしれないというのだ。

■アラスカ痘ウイルスで初の死亡者

 米アラスカ州キーナイ半島在住の高齢男性が、最近発見されたアラスカ痘ウイルス(Alaskapox virus、AKPV)による最初の死亡者となった。アラスカ州の公衆衛生当局によると、男性は昨年11月に入院し、今年1月下旬に死亡した。

 男性は亡くなる前にがん治療を受けており、薬の影響で免疫力が低下していた。アラスカ州公衆衛生局のジュリア・ロジャース氏は英「Mirror」紙に対し、科学者たちはウイルスのヒトからヒトへの感染の可能性についてより深く理解するための取り組みを行っていると語っている。

「Daily Star」の記事より

「アラスカ痘ウイルスは人獣共通感染症のオルソポックスウイルスであり、動物から人間に感染することを意味します。これらのウイルスは哺乳類に感染し、皮膚病変を引き起こします」(ロジャース氏)

 アラスカ痘ウイルスは2015年にフェアバンクス近郊の女性から初めて発見され、2023年12月現在までにさらに6人がアラスカ痘ウイルスに罹患している。

 今回の死亡事例はフェアバンクス以外では初の症例であり、アラスカに生息する多くの小動物にウイルスが蔓延している可能性があることが示された。

 ロジャーズ氏は「私たちの調査によると、アラスカ痘ウイルスはフェアバンクス地域に限定されているのではなく、これまで知られていたよりもアラスカの小型哺乳類に広く蔓延しているようです」と加えた。

「これまでの捕獲調査では、アカハタネズミが野生の動物のアラスカ痘ウイルスの保有源である可能性があることが示されています。これまでに実施された7件の症例調査に基づくと、アラスカ痘ウイルスがヒトからヒトに感染したという証拠はこれまでのところ存在しません」(ロジャース氏)

 ヒト=ヒト感染のケースは報告されていないが、懸念はないわけではないという。

「しかし、他のオルソポックスウイルス(サル痘など)に基づいてヒトからヒトへの感染の可能性を排除することはできず、今後の症例調査で感染が起こったかどうかの評価が継続されることになります」(ロジャース氏)

 アラスカ痘ウイルスの感染経路はまだよくわかっていないが、小動物から人間に感染する可能性が高いと考えられている。

ハタネズミはアラスカ痘ウイルスの保因者であると考えられている 「Daily Star」の記事より

■懸念されるヒト=ヒト感染のケース

 死亡した高齢の男性は、時折ネズミなどの小動物を狩る野良猫の世話をしており、この野良猫に何度も引っかかれたことがあるという。しかしこの猫はウイルス検査で陰性であった。猫の爪に残っていたネズミのウイルスが男性に感染したのかもしれない。

「今回の新たな症例は、入院と抗ウイルス治療を必要とする重篤なアラスカ痘症の初の症例です。この患者の免疫不全状態は、病気の重症度と最終的な死亡の中心的な要因であった可能性があります。アラスカ痘ウイルスが患者の死に果たした役割を理解するには、さらなる検査が必要です」(ロジャース氏)

 ロジャース氏は医師に対し、特に脆弱な患者に対しては警戒するよう求め、免疫不全患者においては特にアラスカ痘ウイルスの予防に意識を高めるべきであると警告している。

「Daily Star」の記事より

 アラスカ痘ウイルスに罹患した者は、皮膚病変のほか、発熱、リンパ節の腫れ、関節痛や筋肉痛などの症状を経験する。

 アラスカ痘患ウイルス感染者の何人かは、最初はクモか虫に刺されたのだと思っており、1人を除いて全員が軽度の症状のまま数週間後には自然治癒したという。つまり確認されていない感染も相当数あることになる。

 さらにロジャース氏は感染者と思われる人物とタオル類や寝具、衣服など肌に直接触れるモノを共有しないように呼び掛けている。そしてアラスカ痘ウイルスによって引き起こされた可能性のある皮膚病変のある人は、患部を包帯で覆うことが求められるということだ。

 物理的距離の面からも気候面からもアラスカ痘ウイルスは日本には縁遠いとは思われるものの予断は禁物だろう。そして今後、ヒト=ヒト感染のケースが報告されることになるのか引き続きチェックが必要である。

参考:「Daily Star」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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