無人島の砂浜に描かれた「HELP」のサイン、救出の先に待っていた思わぬ偶然

 小島の砂浜に描かれた「HELP」の文字を上空から発見した沿岸警備隊機はさっそく救出に乗り出したのだが――。

■無人島の浜辺に「HELP」の文字

 2024年4月8日、ハワイを拠点とする沿岸警備隊の航空機の乗組員が、ミクロネシア連邦ヤップ州のパイケロット環礁の小さな島の砂浜に「HELP」の文字を確認した。この救援を乞うサインの存在は前日に米海軍機から報告されていたものであった。

 さっそく救出作戦が発動され、米海軍も出動して太平洋の小さな小島に1週間以上取り残されていた船員3人が翌9日に救出されたのだ。

「IFLScienec」の記事より

 アメリカ沿岸警備隊当局者らによると、この3人は3月31日、ミクロネシアの一部であるパイケロット環礁周辺の海域で釣りを計画していたところ、乗っていた全長20フィートのボートが荒波に巻き込まれ、船外機が損傷したという。

 彼らは無人の小島に急いで上陸したが、運が悪いことに助けを呼ぶ前に無線機の電池が切れてしまった。

 沿岸警備隊の声明によると、漂流者らは31エーカーの小島からヤシの葉を集め、浜辺に「HELP」と見えるように並べて救助を待っていた。

 彼らの親族の1人が4月6日の時点でまだ帰らぬ3人についてグアムの救助当局に電話で報告した。これを受けて4月7日、沖縄の嘉手納基地から派遣された米海軍P-8A偵察機が海岸でヤシの葉の「HELP」の文字を発見したのである。

 彼らは1週間、ココナッツの実を食べて栄養を補給し、幸いにも島には小さな井戸あり水に困ることはなかった。この井戸は漁師の間では知られており、時々ここに漁の最中の漁師が水の補給に訪れるということだ。

 救助された3人の健康状態に異常はみられず、ともあれ無事に救助されて事なきを得たのだが、その先に思わぬ偶然が待っていたのだった。

 この無人島のビーチに上陸用ゴムボートで乗り上げて最初に彼らに接触したのは沿岸警備隊のユージン・ハリシリウス二等兵であった。ミクロネシア出身のハリシリウス二等兵は地元の言葉を話すことができるため、救助された彼らは少し驚いたのだった。

「おお! 我々の言葉を話せるこの男は何者だ?」と驚く彼らに、ハリシリウス二等兵は自分の名前を名乗ったのだが、彼らはさらに唖然とした。なんと彼らは血縁関係にあったのだ。

「クレイジーな出来事です。実は私も彼らと親戚関係にあることがわかったんです!」 とハリシリウス二等兵は語る。

「彼は私が沿岸警備隊と一緒に彼らを救出しようとしていることが信じられませんでした」(ハリシリウス二等兵)

 男性の1人は3番目のいとこで、ほかの2人は4番目のいとこだったのだ。久しく会っていなかった親族の再会が奇遇にも無人島で実現することになったのである。

ハリシリウス二等兵 「IFLScienec」の記事より

■海に出る前の準備と点検を怠ってはならない

 パイケロット環礁では時々こうした漂流者が発生している。

 2020年にはミクロネシアの2つの環礁間を行き来していた3人の男性が、航海中にボートの燃料が切れてしまい、小島の1つに漂着した。

 3人はビーチに「SOS」と綴って救助を待った。この小島のメッセージはグアムのアンダーセン空軍基地から出港していた米空軍タンカーの乗組員によって発見され、沿岸警備隊とオーストラリア海軍部隊が救助にあたったのだった。

 同じ島で4年間に2回も同じことが起こったことになる。

パイケロット環礁 「IFLScienec」の記事より

「偶然かもしれない」とアメリカ沿岸警備隊ミクロネシア駐在広報担当の首席准尉サラ・ミューア氏は語った。

「ミクロネシアの人々は島から島へ頻繁に旅行しており、その旅には優れた技術と経験を持っています」とミューア氏は説明する。

「しかし、時には事故も起こります。この予期せぬ親族との再会も同様です」(ミューア氏)

 かつての海の漂流者は命を落とす危険に晒されたが、このような手際良い救出劇は良い意味で今日の世界が狭くなっていることを示すケースでもあるだろう。だからといって海に出る前の準備と点検を怠ってはならないことは言うまでもない。

参考:「Sott.net」ほか

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文=仲田しんじ

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
ツイッター @nakata66shinji

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