【未解決事件】最悪の胸糞『四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件』“怖い顔の女犯人”はなぜ逮捕されない?

ーー日本の凶悪事件に詳しいライター・野島居慎太郎が再解読!

●四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件とは?

 2004年2月17日、三重県四日市市にあるジャスコ四日市尾平ショッピングセンター(現・イオン四日市尾平ショッピングセンター)の施設内にあるATMコーナーで、2〜3歳ほどの幼児を抱いた若い女性客と、当時68歳の男性客が言い争いになるというひと幕が発生した。女性客は男性客が自分の財布を盗もうとしているとその場に居合わせた人々に主張。男性客は否定するものの、女性客側の一方的な主張を無警戒に信じた周囲の客や店員らに男性客が取り押さえられ、また、別の万引き事件の処理のために同店を訪れていた警察官2名が、ほどなく現場に到着したことで、男性は後ろ手に手錠をかけられ、その場で拘束されたという。

三重県が公開した女性のビデオ画像


 しかしこの男性は、その場で体調に異常を来たし、緊急搬送された後で、翌日に死亡。その後の捜査により、男性は自分のキャッシュカード(最期まで握り締めていたという)を使って通常のATM操作をしようとしていたに過ぎず、まったくの誤認逮捕であったことが判明する。しかも、防犯カメラの映像を確認すると、財布を盗もうとしていたのは女性客側であり、問題となった「財布」も、あろうことか死亡した男性客自身のものであったという。自分が行ったスリの犯行を、男性側になすりつけ、まんまと周囲を巻き込むことに成功したこの女性客は、現場のドサクサに乗じてそのまま逃走し、逮捕されないまま2011年2月17日午前0時、窃盗未遂事件としての時効を迎えることとなってしまった。これが世に言う『四日市ジャスコ誤認逮捕死亡事件』である。

 

■難航した犯人の捜索と「怖い画像」

 この事件を巡っては、捜査開始直後に当局によって公開された防犯カメラ映像の姿を元に、問題の「女性客を装ったスリ犯」の捜索が開始されたものの、そのインパクトある風貌とは裏腹に、逮捕に繋がる情報は一向に寄せられなかったという。しかしその一方で、その「インパクト」から、現在でも防犯カメラ映像のキャプチャ画像がネット上で拡散され続けており、「怖い画像」としての知名度のみ高まるという、被害男性のご遺族からすれば、なんとも歯がゆい状況が続いているのが実情だ。そこで今回は、シンプルに「なぜこの事件の犯人が逮捕されることなく、現在に至っているのか?」という点について、筆者なりに考えてみたいと思う。無論、そうしたところで被害男性が生き返るわけでも、ご遺族の無念が晴れるわけでもないとは思うが、こうした記事をネット上に墓標の如く残すことで、近い将来、事件の全貌が解き明かされる一助になればと切に願う。

 

■インパクトがありすぎるルックス

 さて、この事件を見たときに、まず多くの人々が真っ先に思うであろうことの1つに、「女スリ犯のルックス」が、あまりに強烈なインパクトを与えるものであるという点があるかと思う。たしかに事件発生当初に配布されたチラシなどで紹介されたカメラ映像の中のスリ犯は、画質が悪いことも手伝い、常人離れした、あえて言葉を選ばなければ、それこそ妖怪のような風貌の持ち主なのだ。前述の通り、この「ルックス」が与えるインパクトが、この事件の知名度を上げている1つの要因であるといえるだろうが、実はそれこそが、皮肉にも、犯人逮捕を難しくしている最大の原因ではないかと筆者は見ている。

 1枚目の画像をご覧いただいたであろうが、なにせこのルックスである。仮に防犯カメラの映像ではなく、至近距離から見て、これとさして変わらぬルックスであったとするならば、すれ違うたびに、多くの人々がこの女の姿を見て強烈な印象を受け、忘れたくても忘れられない状態に陥るハズである。にもかかわらず、現場周辺での目撃情報からは、不思議と彼女の足取りはほとんど浮かび上がってこなかったという。ということは、事件発生当時、周囲の人々が実際に見た「この女の姿」と、防犯カメラ映像からの画像として公開された「この女の姿」は、大きく異なっている可能性が高いと推測されるのだ。

 

■犯人画像を比較!


 実は一番有名な正面斜め上から撮影された右の画像と、一緒に公開された横からの画像を比較すると、一見、同じ人物であるとは思えないほどに、印象が異なっていることがよくわかる。前者が「妖怪のような怪人」であるとするならば、後者は「ごくごく普通の子供を抱いた女」にしか見えないのだ。たしかに、右の「妖怪のような女」が被害男性と揉みあいになっていたとするならば、その光景を見た人々の多くは、無条件にこの女の言葉を信じて、被害男性を取り押さえるようなことはしないだろう。にもかかわらず、現実に、被害男性の訴えは聞き入れられず、ほぼ無条件に女の言う言葉が、瞬く間に「事実」として周囲の人々に共有されていったかのような印象を受ける。たしかに、「幼子を連れている」という要素が演出効果として働いた部分もあるかとは思うが、たとえ幼子を連れていようとなかろうと、それが「妖怪のような女」であったならば、果たして何人が率先して被害男性の取り押えに協力するだろうか。そう考えれば、明らかに現場で見た女の印象は、「妖怪のような女」ではなく、「ごくごく普通の子供を抱いた女」であったと見るのが妥当だといえるだろう。

 しかし、実際には、現在でもネット上などでは右の画像ばかりが一人歩きし、それと比較すると、左の画像を見かける機会が極端に少ないため、たとえこの事件を知っていたとしても、多くの人々の中にある犯人像は、「右の女」であり、「左の女」ではなく、「右の女」を探そうという意識が邪魔をする形で、たとえ目の前にいたとしても「左の女」には気づかないという状況を生んでしまうと考えられるのだ。ゆえに、この記事を読んだ諸姉諸兄の中に、事件の全貌解明を望む向きがあるのならば、是非とも一度、「左の女」の姿を頭にインプットした上で、日常を過ごして頂ければと思う。もしかすると、意外と近くにこの女が潜んでいるかもしれないのだ。

 なお、この女スリ、当時公開された情報によると、年齢が25〜30歳程度で、身長が約160cmほどだという。しかも、当時2〜3歳程度の幼児を連れていたことから、仮にこの幼児が人形や他人の子供ではなく、この女の実子であるとするならば、2001〜2002年頃に出産していたことになるため、そのまま育っていればこの子供は現在25歳前後、その母親にあたるこの女にしても、50歳〜55歳程度。ということは、いわゆるロスジェネ世代にあたる人物ということになる。

 しかも犯行の内容などから推測すると、この事件が発生するよりも前から、しばしばこの手の犯行を行っていたと考えたほうが妥当である。また、これは筆者の推測でしかないが、この手の事件の場合、必ずと言っても過言ではないほどに、単独では行わないため、騒動となった時点で、現場には協力者がいたハズなのだ。もしかしたら、その人物は、女スリ犯の協力者であると同時に、夫ないし、それに近い関係の男性で、相棒である女が犯行にしくじったと見るや、たまたま居合わせただけの善意の第三者であるかのような体で、周囲の客をそそのかし、男性を取り押さえるように振舞ったかもしれない。だとすれば、防犯カメラに写った「この女以外の人物」の中に、共犯が隠れていたかもしれないのだ。そう思うと、致し方のないこととはいえ、事件発生当時、防犯カメラ映像のすべてが公開されなかったことは、あまりに惜しまれるところである。

 前述の「右の女」or「左の女」の話にしかり、防犯カメラの映像にしかり、何か特定の事象に注目させることは、同時に、結果として、それ以外の数多の事象から目をそむけさせる危険性も孕んでいる。いずれそうした当時の「目をそむけた事象」を思い出し、情報を提供する人々が現れ、この事件の全貌が明かされる日が訪れることに期待したいところだ。

 

※当記事は2021年の記事を再編集して掲載しています。

文=野島居慎太郎

日本の凶悪事件に詳しいライター

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