世界で最も「遺伝的に隔離された」人類、9つの集団の驚くべき実態

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 遺伝的隔離は、人類の歴史において驚くべき現象である。過去5万年の間、人類は地球のあらゆる地域に拡散してきた。しかし、地理的障壁や文化的慣習により、一部の集団は外部との接触を著しく制限されてきた。遺伝的多様性の観点から見ると、これらの集団は独特の遺伝的特徴を持っており、科学者たちの研究対象となっている。

 今回は、世界で最も遺伝的に隔離された9つの集団を紹介しよう。

注目すべき遺伝的に隔離された集団

1.アナバプティスト(アーミッシュ、メノナイト、フッタライト)

 16世紀に起源を持つキリスト教集団であり、多くが17世紀にアメリカに移住した。これらの集団は、遺伝的ボトルネック効果により、特定の遺伝的疾患のリスクが高くなっている。例えば、メノナイトの間では、先天代謝異常症の一種であるメープルシロップ尿症が一般人口の380人に1人の割合で発生する。

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伝統的なアーミッシュ馬車に乗るアーミッシュの家族 it:Utente:TheCadExpertit:Immagine:Lancaster_County_Amish_03.jpg, CC 表示-継承 3.0, リンクによる


2.パールシー

 パールシーはペルシャから7世紀にインドに移住したゾロアスター教徒のコミュニティである。伝統的に宗教内結婚を重視するため、遺伝的に隔離されてきた。興味深いことに、この集団は長寿の遺伝子変異を持ちながら、乳がんのリスクも高いことが判明している。

3.シェルパ

 ネパールの山岳地帯に住むシェルパは、地理的に隔離された集団として知られる。4〜6世紀にチベットから移住し、高地適応能力に優れた遺伝的特徴を持っている。エベレスト登山ガイドとしても有名なこの集団は、独自の遺伝的特性を維持してきた。

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シェルパの家族 画像は「Wikipedia」より

4.パプアニューギニア人

 興味深いことに、パプアニューギニア人は5万年前に絶滅したデニソワ人と遺伝的に混血した後、長期にわたり遺伝的に隔離されてきた。highland(高地)とlowland(低地)の住民間で、顕著な遺伝的差異が存在することが明らかになっている。

5.ヌナビク・イヌイット

 カナダ北部ケベック州の最北部に位置するイヌイット集団である。北米極地で最後に定住した人々の一つで、約7〜8世紀前に到達した。彼らの遺伝子は、厳しい寒冷気候での生存に適応した特殊な脂質とタンパク質代謝能力を示している。一方で、脳動脈瘤のリスクも高いことが明らかになっている。

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6.アンティオケニョス(パイサス)

 コロンビア北西部に位置する遺伝的に隔離されたコミュニティである。スペイン人と先住民女性の小規模な集団から始まり、独特の遺伝的特徴を持っている。特に、早期アルツハイマー病のリスクが高い遺伝子変異が注目されている。45歳までに認知機能障害、50歳までにアルツハイマー病を発症するリスクがある。

7.アシュケナージ系ユダヤ人

 中東から中央・東ヨーロッパへ移住したユダヤ人離散集団である。約800万人のアシュケナージ系ユダヤ人の半数が、たった4つの母系集団にルーツを持つことが判明している。タイ・サックス病などの遺伝的疾患のリスクが高いことで知られる。

8.フィンランド人

 フィンランドの歴史上、少なくとも2回の大きな人口ボトルネック(人口減少)を経験している。地理的に隔離され、人口密度が低いため、特定の遺伝子変異の頻度が高くなっている。「フィンランド病遺伝子遺産」データベースには、民族フィンランド人に特有の遺伝的疾患が多数記録されている。

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ヘルシンキの繁華街 Mahlum投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, リンクによる

9.トリスタン・ダ・クーニャ

 南大西洋に位置する、世界で最も人里離れた有人諸島の一つである。1816年の入植時は15〜28人程度の小規模な集団だったため、典型的な創始者効果を示している。現在は約250人の永住者が暮らしており、網膜色素変性症や喘息の発生率が異常に高いことが知られている。2019年の研究では、集団内の喘息の頻度が異常に高いことが明らかになった。

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トリスタンダクーニャ島の衛星写真 NASA ASTER volcano archive jpl – http://www.oceandots.com/atlantic/saint-helena/tristan2.php, パブリック・ドメイン, リンクによる


 これらの集団に共通するのは、小規模な集団から始まった「創始者効果」により、特定の遺伝的特徴や疾患リスクが集中していることである。科学者たちは、これらの集団を研究することで、人間の遺伝的多様性と特定の疾患メカニズムの理解を深めようとしている。

 遺伝的隔離は人類の生存と適応の驚くべき証といえるだろう。地理的、文化的、宗教的な要因などにより形成されたこれらの集団は、人類の遺伝的多様性と適応能力を示す貴重な「生きた研究室」と言えるかもしれない。

参考:Live Science、ほか

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文=深森慎太郎

人体の神秘や宇宙の謎が好きなライター。未知の領域に踏み込むことで、日常の枠を超えた視点を提供することを目指す。

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