20世紀最大の禁断実験「二つ頭の犬」成犬の首に子犬を移植し、生きたまま繋ぎ合わせた狂気の記録

20世紀最大の禁断実験「二つ頭の犬」成犬の首に子犬を移植し、生きたまま繋ぎ合わせた狂気の記録の画像1
画像は「YouTube」より

 1954年、ソ連の生理学者ウラジミール・デミホフが公開した一つの実験が、世界の科学者、ジャーナリスト、一般市民を震撼させた。その内容はあまりに過激で、「狂気」「異端」「悪魔の科学」と形容されながらも、同時に“移植医療の夜明け”として評価され続けている。それが、成犬の胴体に別の子犬の頭部を繋ぎ合わせ、生きた二つ頭の犬を作り出した頭部移植実験である。

 当時の映像には、成犬の首元から突き出た小さな子犬の頭が、水を飲み、舌を出し、成犬に向かって噛みつくような仕草まで見せる姿が残されている。世界はこの異様な光景を信じがたいものとして受け止めたが、デミホフ自身は決して“ショッキングなパフォーマンス”を目的としていたわけではなかった。彼の目線の先には、臓器移植という、当時ほとんど未知の領域が広がっていた。

■デミホフという“天才と狂気”の科学者

 デミホフは1910年生まれ。若い頃から動物生理学と外科手術に異常ともいえる情熱を注ぎ、20代で人工心臓の試作に取り組むなど、常識の外側に位置する天才であった。ソ連の学術界は、優秀な頭脳を国家の威信に利用しようとした時代であり、彼のような野心的研究者には一定の自由が与えられていた。

 その研究は多岐にわたる。心臓移植、肺移植、二つ目の心臓を体内に追加する“二重心臓実験”、そして頭部や上半身の移植――今日では倫理的に完全にアウトな領域も含まれるが、当時は移植の原理すら定義が曖昧で、臓器がどの条件で生存し続けるのかを探る必要があった。デミホフが試みた実験は、倫理の境界線を軽々と越えながらも、医学の未来を切り開くための“極端な探索”でもあった。

 実際、彼の研究に深く影響を受けた科学者は多い。中でも、1967年に世界初の心臓移植を成功させた外科医クリスチャン・バーナードは、「デミホフの存在なくして心臓移植はなかった」と語っている。デミホフは、医学史の影の巨人であった。

■実験の実際――どうやって“二つ頭の犬”は作られたのか

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画像は「YouTube」より

 デミホフが行った頭部移植手術は、極めて精密かつ大胆である。まず、まだ若い子犬の頭部と前脚を血管ごと切断し、生命活動に必要な組織を最大限保持したままの状態にする。次に、成犬の首元を外科的に開き、頸動脈と頸静脈に子犬の頭の血管を接続。血流が確保されれば、切断された頭部でも一定時間“生き続ける”。この仕組みを利用し、子犬の頭部を成犬の体に“二つ目の頭”として接続したのである。

 記録によれば、複数の個体が作られ、最短では数日、長いものではおよそ1ヶ月生きたとされる。子犬の頭は反射行動を示し、水を飲ませれば嚥下する。外界刺激に反応する例もあった。もちろんこれは独立した思考を維持しているわけではなく、血流で最低限の生理機能が保たれていたに過ぎない。しかし1950年代の技術としては驚異であり、臓器が「身体から切り離されても血流があれば生存する」ことを示した極端な例となった。

 この“成果”は、移植医療に必要な血管吻合技術(血管のつなぎ合わせ)の訓練としても用いられ、外科医の育成に寄与したとされる。倫理は激しく欠如していたが、純粋な技術革新としては歴史的だった。

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By Bundesarchiv, Bild 183-61478-0004 / Weiß, Günter / CC-BY-SA 3.0, CC BY-SA 3.0 de, Link

■世界の反応――恐怖、嫌悪、そして皮肉な評価

 二つ頭の犬の映像はすぐに欧米メディアでも取り上げられ、冷戦プロパガンダとして「ソ連は怪物を作り出す国だ」とセンセーショナルに報じられた。学会でも批判は強く、動物倫理の観点から激しい反発が噴出した。しかし一方で、一部の外科医や研究者たちはデミホフの技術を高く評価した。倫理と科学的価値が真っ向から衝突した、典型的な“人類の悩ましい進歩”そのものだった。

 現代の基準では、頭部移植はもちろん、動物に対する侵襲的な実験の多くが禁止されている。もし同様のことを行えば、即刻研究停止命令が出され、研究機関も研究者も社会的に抹殺されるだろう。

 しかし皮肉なことに、デミホフが開発した技術は結果的に移植医療の礎となり、数多くの命を救う医療技術へと発展した。“闇の研究”は決して美しいものではなかったが、その影は医学の光に確かに結びついていたのである。


 デミホフが生み出した“二つ頭の犬”は、単なる奇怪な実験ではない。それは、科学が倫理と衝突しながら進化してきた歴史そのものの象徴である。彼の実験は、今となっては許されざる行為の集大成でありながら、現代医療の基盤を形成した事実も揺らがない。

 狂気と天才が混在したこの実験は、人類がどのように未来の医療を開拓してきたのかを示す、皮肉と矛盾に満ちた“科学の深淵”である。

参考:ViceTheJournal、ほか

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文=深森慎太郎

人体の神秘や宇宙の謎が好きなライター。未知の領域に踏み込むことで、日常の枠を超えた視点を提供することを目指す。

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