水銀を飲み、少年の血を求めた権力者たち… 古代皇帝からIT長者まで「不老長寿」に挑んだ狂気の歴史

不老長寿への欲望は、時代や文明を超えて繰り返されてきた。
シリコンバレーのテック起業家から古代中国の皇帝、ルネサンス期の貴族、近代科学者に至るまで、「老い」と「死」を拒絶しようとする試みは、しばしば科学と狂気の境界を踏み越えてきた。
現代版“不老実験”の最前線 ― ブライアン・ジョンソンという実在のケース
現代において最も有名な不老長寿の実践者は、間違いなくブライアン・ジョンソン氏だろう。

TOCANAでも何度か報じたように、彼は自身の身体を「プロジェクト」と定義し、年間約200万ドル(約3億円)を投じて、老化を数値化・制御する試みを行っている。
Netflixのドキュメンタリー『Don’t Die』でも紹介された彼の生活は、極端そのものだ。
食事、睡眠、運動、投薬、ホルモンレベル、DNAメチル化年齢(エピジェネティック・クロック)まで徹底的に管理し、さらには一時期、10代の息子から血漿輸血を受けていたことでも話題になった。
ここで重要なのは、「若者の血で若返る」という発想自体が、完全な突飛な思いつきではない点である。
マウスを使ったパラビオーシス(若い個体と老いた個体の血流を共有させる実験)では、老齢マウスの筋肉再生や脳機能が改善するという論文が、2000年代以降、複数発表されてきた。
しかし同時に、
・ヒトにおける明確な若返り効果は未証明
・米FDAは若返り目的の血漿輸血を明確に否定
・感染症・免疫反応などのリスクが高い
という現実もある。
ジョンソン氏自身も後にこの方法を中止しており、現代科学ですら「血による若返り」は、まだ仮説段階に留まっている。
古代中国の“永遠の命” ― 皇帝を蝕んだ不老不死薬

不老長寿を国家プロジェクトとして追求した最古の例の一つが、秦の始皇帝だ。彼は方士(道士)たちに命じ、各地で「不老不死の霊薬」を探索させた。
史書『史記』などに記録されているのが、水銀を含む「辰砂(しんしゃ)」の服用だ。
当時の道教思想では、水銀は霊的変容をもたらす神秘の物質と考えられていたが、現代医学の視点では明確な毒である。
実際、始皇帝の陵墓周辺の土壌からは異常に高い水銀濃度が検出されており、彼が慢性的な水銀中毒に陥っていた可能性は、考古学的にも裏付けられている。
皮肉なことに、「永遠の命」を求めた皇帝は49歳で急死した。不老不死薬は、最も古く、最も致命的なアンチエイジング失敗例と言えるだろう。
黄金を飲み、血にすがった権力者たち
ルネサンス期ヨーロッパでも、不老長寿は錬金術と結びついて追求された。
16世紀フランス、アンリ2世の愛人として知られるディアーヌ・ド・ポワチエは、「飲める黄金」と呼ばれる金化合物を常用していたとされる。

これは単なる噂ではない。2009年、彼女の遺髪を分析した研究で、通常の数百倍に及ぶ金元素が検出された。
つまり彼女は実際に、長期間にわたって金を体内に取り込んでいたことが、科学的に確認されている。
一方、血に関する逸話で有名なのが、ローマ教皇インノケンティウス8世だ。15世紀の記録によれば、彼は死の床で若返りを期待し、少年たちの血を飲んだとされる。

ただしこの点については注意が必要で、同時代史料の信頼性には議論があり、「輸血」ではなく象徴的な儀式だった可能性も指摘されている。
いずれにせよ、結果は変わらない。教皇は回復せず、若返りは実現しなかった。
科学者ですら越えてしまった一線
近代科学の黎明期、不老長寿は「疑似科学」と「実験医学」の境界で追求された。
19世紀、生理学者シャルル=エドゥアール・ブラウン=セカールは、犬やモルモットの睾丸抽出液を自らに注射し、活力の回復を報告した。

この発表は世界的なセンセーションを巻き起こし、後のホルモン研究の遠因となった一方で、現在ではプラセボ効果の可能性が高いとされている。
さらに極端なのが、ロシアの医師で革命家でもあったアレクサンドル・ボグダーノフだ。彼は若者の血液輸血によって若返りを試み、実際に「視力が改善した」と報告している。
しかし1928年、マラリアと結核に感染した学生の血液を輸血したことで死亡した。理想主義と科学的リスク管理の欠如が招いた、悲劇的な結末だった。

不老長寿はどこまで可能なのか
こうして振り返ると、不老長寿の歴史は単なる奇談の連続ではない。
そこには常に、
・当時の最先端知識
・未検証の仮説
・死への根源的恐怖
が複雑に絡み合っている。
現代のバイオテクノロジーは、確かに老化のメカニズムを部分的に解明しつつある。しかし、過去の例が示すように、「若返り」という言葉が安易に使われるとき、そこにはいつも危険な飛躍が潜んでいる。
不老長寿は、人類にとって永遠の夢であると同時に、何度も繰り返されてきた“失敗の歴史”でもあるのだ。
参考:Daily Star、Netflix、Wikipedia、ほか
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