スターダスト号失踪事故、最後の交信「STENDEC」に隠された意味は? 80年近く続くアンデスの航空ミステリー

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 1947年8月2日、アルゼンチンのブエノスアイレスからチリのサンティアゴへ向けて、ブリティッシュ・サウスアメリカン航空(BSAA)所属のアブロ・ランカストリアン型旅客機「スターダスト号」が飛び立った。経験豊富な元英国空軍(RAF)のクルー5名と、外交官やビジネスマンら乗客6名を乗せたこのフライトは、当初、南米南部を巡るごく普通の旅程に見えた。

 しかし、このスターダスト号のフライトは、後に航空史上最大の謎の一つとして語り継がれることになる失踪劇の幕開けとなる。

 目的地サンティアゴへの到着が近づいた午後5時41分、スターダスト号の無線通信士デニス・ハーマーは、地上へモールス信号を送った。内容は到着予定時刻を伝える定型的なものだったが、そのメッセージの最後に、奇妙で、誰も意味を知らない単語が、寸分の狂いもなく3度繰り返されたのだ。

「STENDEC. STENDEC. STENDEC」

 その直後、スターダスト号はレーダーから姿を消し、文字通り世界から失踪した。

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画像は「Wikipedia」より

解読不能な最後の言葉「STENDEC」の謎

 チリとアルゼンチンの航空当局は直ちに捜索活動を開始したが、機体の残骸はおろか、煙や衝突の痕跡すら見つけることはできなかった。スターダスト号はまるでアンデスの空に溶けてしまったかのようだった。

 しかし、捜査関係者を最も悩ませたのは、機体の失踪そのものよりも、最後に残された謎の言葉「STENDEC」であった。一体これは何を意味するのか?秘密のコードか?救難信号か?それとも単なる通信士のミスなのか?

 何十年もの間、航空、暗号解読、無線通信の専門家たちが、この「STENDEC」の意味について議論を重ねてきた。モールス信号の打ち間違いではないかという説(例えば “DESCENT”(降下)の誤送信)、あるいは頭字語ではないかという説(例えば “STar Dust ENroute to Destination – Emergency Crash”(スターダスト号、目的地へ向けて飛行中、緊急墜落))、様々な仮説が立てられた。

 しかし、どの説も決定的な証拠はなく、むしろ3度も正確に繰り返されたという事実が、これが意図的に、そして明確に送信されたメッセージであることを示唆しているようにも思われた。

 謎は謎を呼び、伝説は膨らんでいく。戦後の秘密任務に関連する軍事暗号だという者、当時の冷戦下で盛り上がりを見せていたUFO(未確認飛行物体)と結びつけ、地球外からのメッセージだと主張する者まで現れた。物理的な証拠が何も見つからないことが、かえって「アコンカグア(アンデスの高峰)の幽霊飛行機」という伝説を大きく育てていったのだ。

 他の可能性としては、高高度飛行による低酸素症(酸素不足)が通信士の判断力や操作能力に影響を与え、意味不明な文字列を送信してしまった、あるいはエラーを引き起こした、という見方も存在する。また、未知の緊急事態に際し、即席で何らかの合図を送ろうとして、意図的に「偽の」単語を使ったのではないか、と考える向きもある。

50年の時を経て氷河の下から現れた真実

 この「STENDEC」の謎は、半世紀以上も未解決のままだった。事態が動いたのは1998年。アルゼンチンの登山ガイド、ペドロ・レゲラ氏が、トゥプンガト山(アンデス山脈の火山)の氷河を登っていた際、雪の中で何かが鈍く光っているのに気づいた。

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上空から見たトゥプンガト山 Dropus投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

 他の2人の登山愛好家と共に近づいてみると、それは標高約4000メートルの氷河の中から現れた、スターダスト号の残骸だったのである。

 スターダスト号は空中分解したのでも、何者かに連れ去られたのでもなかった。高高度の強い偏西風(ジェット気流)の影響と視界不良により、航路を誤って計算し、山に激突していたのだ。発見者親子が「機体には金塊が積まれていた」という噂を広めたことも、ミステリーに拍車をかけた。

 ゆっくりと流れる氷河は、50年以上にわたって機体の残骸を厚い氷の下に封じ込めていた。しかし、地球温暖化の影響で氷河が後退し始めた2000年1月頃から、機体の破片や乗客の遺品、さらには遺体の一部までもが次々と姿を現し始めた。

 同年1月、アルゼンチン軍は残骸の散乱状況が比較的小さいことから、斜めではなく正面に近い角度で衝突した可能性が高いと判断した。その後のアルゼンチン民間航空事故調査委員会(JIAAC)の調査では、エンジンが衝突時も巡航速度に近い状態で稼働しており、着陸装置も格納されていたことが判明。これは、パイロットが意図しないまま山に激突した状況、つまりCFIT(Controlled Flight Into Terrain:制御された状態での地上への衝突)を示唆していた。

 最終的に、事故原因は「高高度のジェット気流の影響を適切に評価せず、実際の位置よりも西(山脈を越えたチリ側)にいると誤認し、安全な高度に達する前に降下を開始したことによる致命的なナビゲーションエラー」と結論づけられた。

 これにより、スターダスト号の失踪の物理的な謎は解明された。しかし、「STENDEC」の意味だけは依然として謎のまま残されたのである。

未だ解けぬ「STENDEC」の響き

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 地上オペレーターは「STENDEC」という信号を正確に受信し、それが3度繰り返されたことも記録に残っている。これは単純な打ち間違いの可能性を低くする。結局、生存者はおらず、回収された残骸からも「STENDEC」の意味を解き明かす手がかりは見つかっていない。

 事故調査報告書によれば、最後の通信内容は「ETA SANTIAGO 17.45 HRS STENDEC」(サンティアゴ到着予定時刻 17時45分 STENDEC)だった。モールス符号では “E” は「・」、”N”は「-・」で、”R” は「・-・」であり、一打点の差であることから、通信士が「STR DEC」(Starting Descent:降下開始)と打とうとして誤った、あるいは地上の受信者が聞き間違えた可能性も指摘されてはいる。

 この謎めいた言葉「STENDEC」は、後世にも影響を与えた。1970年代にバルセロナで発行されたUFO研究センター(CEI)の季刊誌のタイトルは『Stendek』であり、イタリアの電子音楽家アレッサンドロ・ザンピエリは「Stendeck」というプロジェクト名で活動し、2002年には『A crash into another world』というアルバムを発表している。

 スターダスト号の物語は、技術が進歩した現代においても、私たちの理解を超える出来事が存在することを教えてくれているのかもしれない。たった一つの言葉が、何世代にもわたって人々の想像力をかき立て、合理的な説明を拒み続けることがあるのだ。

 事故から80年近くが経とうとしている今も、「STENDEC」は謎めいた響きを私たちに送り続けているのである。

参考:Espacio MisterioWikipedia、ほか

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