FBIも恐れたSF作家フィリップ・K・ディックの“異常体験”!彼が到達した「シミュレーション仮説」とは?

この宇宙は、実は壮大なシミュレーションなのかもしれない――
そんなSFのような話が、今、物理学の世界で真剣に議論され始めている。最近、物理学者のメルビン・ヴォプソン博士が学術誌「AIP Advances」に発表した研究は、重力という我々が当たり前のように感じている力が、実は宇宙の情報を最適化するための計算メカニズム、つまり情報のエントロピー(無秩序さの度合い)を減少させるシステムかもしれない、という驚くべき可能性を示唆した。簡単に言えば、この世界は誰かによってプログラムされたシミュレーションかもしれない、というわけだ。
しかし、この斬新なアイデア、実は半世紀以上も前に、一人の作家が身をもって体験し、作品として世に問いかけていたことをご存知だろうか。その作家の名は、フィリップ・K・ディック。人工知能に歪められた世界、並行現実、そして精巧な偽りの現実――彼の作品は、まさに「もしこの現実が本物ではなかったら?」という哲学的問いに満ちていた。
そして1974年、彼は自ら「現実の欠陥」としか言いようのない体験をする。まるでマトリックスの亀裂から、日常というカーテンの向こうに隠された真実を垣間見てしまったかのように……。
1974年2月、現実が裂けた日

フィリップ・K・ディックは、いわゆる典型的なSF作家ではなかった。『ユービック』『高い城の男』『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』といった彼の代表作が描くのは、輝かしい未来技術ではなく、むしろ哲学的なパラノイアだ。「もし現実が現実でなかったら?」「我々は騙されているのではないか?」「時間とは幻なのか?」。
その彼に、運命の日が訪れる。1974年の2月、歯の治療を受けた直後のことだった。薬の配達に来た若い女性が首にかけていたのは、金色の魚の形をしたペンダント。それは、初期のキリスト教徒たちが互いを識別するために用いたシンボルだった。
そのペンダントを目にした瞬間、ディックは電気的な衝撃のようなものを感じたという。「水門が開き、別の現実が見えた」と彼は後に記している。彼は1974年のカリフォルニアにいると同時に、1世紀のローマ帝国で迫害されるキリスト教徒でもあった。二つの時間が重なり合い、現実は音を立てて崩れ始めた。そして、彼の知る現実は二度と同じ姿を取り戻すことはなかった。
『エクゼジェシス』に記された狂気か、それとも啓示か
この強烈な体験の後、ディックは彼が「超越的な情報」と呼ぶものを次々と受信し始める。数ヶ月にわたり、彼は数千ページにも及ぶ膨大な手記を書き続けた。今日『エクゼジェシス(釈義)』として知られるこの記録は、彼が見たもの、感じたものに意味を与えようとする、一種の神秘的・哲学的日誌だった。
そこで彼は、我々が感じる直線的な時間は幻想であり、世界は何らかの人工的な存在によって制御され、そして、ある種の超越的な知性が彼にコンタクトを取ろうとしていると結論づけた。
周囲の人々は、彼が正気を失ったと考えた。しかし、本当にそうだったのだろうか?
1977年、フィリップ・K・ディックはフランスのメッスで開催されたSF大会に招かれた。文学に関する講演が期待されていたが、それは衝撃的な告白の場と化した。度肝を抜かれた聴衆を前に、ディックは自作の小説のいくつかはフィクションではなく、前世の記憶や並行現実の記録なのだと断言したのだ。我々はシミュレーションという名の牢獄に囚われており、誰か、あるいは何かが我々の知覚をコントロールしている、と。
彼のスピーチはあまりにも挑発的だったため、FBIやCIAの諜報員がその会議に出席し、後に彼の著作を調査したという噂まで流れた。彼の周辺では原稿が盗まれたり、匿名の電話がかかってきたり、秘密裏に監視されているといった話がまことしやかに囁かれた。
晩年のディックは、何か巨大な存在が自分を黙らせようとしていると確信していたという。そして驚くべきことに、数年後に機密解除された公文書によって、FBIがフィリップを「要注意人物」としてマークし、CIAが「外国諜報機関との接触」を疑っていたことが実際に確認されたのだ。

科学がSF作家の直観に追いつく日
ヴォプソン博士が今日、理論物理学の立場から提唱する「重力は宇宙の計算ツールであり、情報のエントロピーが物理法則の背後にある」という考えは、フィリップ・K・ディックが50年前に抱いた強烈な直観と奇妙なほどに共鳴する。
ディック自身の言葉を借りればこうだ。「現実とは、君がそれを信じるのをやめても、消え去らないもののことだ。だがそれはまた、君が勇気を出してカーテンの向こうを覗き見たときにだけ、その姿を現すものでもあるのかもしれない」。
果たして、フィリップ・K・ディックは狂気に取り憑かれた天才だったのか、それとも自身の妄想に苦しむ預言者だったのか。あるいは、彼はシミュレーション世界の存在に誰よりも早く気づいた、孤独な先駆者だったのだろうか。
科学がディックの描いた深淵を覗き込み始めている今、我々は自問せずにはいられない。ひょっとすると私たちは皆、フィリップ・K・ディックの壮大な小説の中に生きているのではないだろうか、と。
参考:Espacio Misterio、ほか
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