砂漠に突如現れた“巨人” ― 謎の地上絵「マリーマン」と26年間続く犯人探しの物語

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By Peter CampbellOwn work, CC BY-SA 3.0, Link

 1998年7月、オーストラリアの広大な砂漠地帯(アウトバック)にある小さな町マリーに、奇妙なファックスが届いた。「マリーのための観光名所」と題されたその文書には、こう記されていた。「マリーの北西37マイルの高原に、全長2マイルを超える巨大なアボリジニの絵がある。これは世界最大の芸術作品だ」。差出人は、不明。この一枚のファックスから、26年以上経った今もなお、世界中の好奇心をかき立てる、壮大なミステリーが始まった。

砂漠に刻まれた、全長3.2kmの“狩人”

 ファックスを受け取った一人、マリー・ホテルの経営者だったピーター・ムーア氏は、半信半疑ながらも自家用機で指定された場所へ向かった。すると、そこには確かに、巨大な地上絵が描かれていた。地面に溝を掘って描かれたその絵は、槍を構え、狩りをするアボリジニの男性の姿だった。全長は3.2km以上。ペルーのナスカの地上絵の5倍もの大きさだ。

 この謎の地上絵は、やがて「マリーマン」と呼ばれるようになり、一躍世界の注目を集めた。上空からしかその全貌を拝めないこの“贈り物”は、ファックスの送り主が予言した通り、静かな田舎町マリーに、かつてないほどの観光客を呼び込んだ。

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撮影:1998年6月28日(NASA Earth Observatory/Landsat、Public Domain)

芸術か、破壊か―巻き起こる論争と、消された“局部”

 しかし、誰もがこの“贈り物”を歓迎したわけではなかった。マリーマンが描かれた土地は、アボリジニの神聖な土地だったのだ。先住民の団体は「先祖代々の土地を勝手に掘り返すとは何事だ」と激怒し、犯人の訴追を求めた。また、希少な植物が破壊されたとして、環境保護団体からも非難の声が上がった。

 さらに、マリーマンが「全裸」で描かれていたことも、一部の保守的な地元住民の怒りを買った。彼らは車で現地に乗り付け、ターンを繰り返して、その“局部”を地面から完全に消し去ってしまったという。

犯人はアメリカ人?アーティスト?それとも…

 一体誰が、何のために、こんな巨大な地上絵を描いたのか。謎は深まるばかりだった。

 ファックスの文面が、距離をマイルで表記するなど、アメリカ英語の特徴を持っていたことや、現場に小さな星条旗が残されていたことから、「アメリカ人犯行説」が浮上。近くにあった米豪共同の防衛施設が、当時まだ珍しかったGPS技術を使って描いたのではないか、と噂された。

 また、ある芸術家が「自分がやった」と名乗り出たこともあったが、彼にそれほどの技術力があったとは考えにくく、信憑性は低いと見なされた。

 謎が謎を呼ぶ中、1999年1月、再び謎のファックスが届く。「すべての答えは、世界各地に埋めた」。壮大な宝探しゲームの始まりを告げるかのようなメッセージだったが、実際にイギリスで発見されたメモには、何一つ具体的な答えは書かれていなかった。犯人は、ただこのミステリーそのものを楽しんでいたかのようだった。

謎のデータと環境保護局員の“共犯”疑惑

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左:1998年5月27日/右:1998年6月12日(USGS・NASA Landsatプロジェクト、Public Domain)

 時は流れ、2015年。マリーマンは風化し、消えかけていた。その姿を惜しんだ元ホテル経営者のフィル・ターナー氏は、自費での修復を決意する。しかし、修復には正確なGPS座標が必要だ。彼が協力を依頼した測量士は、古い航空写真などを元に座標データを作成したが、その精度は不十分だった。

 ところが数ヶ月後、その測量士から「ビンゴだ!驚くほど正確な座標データが手に入った」と連絡が入る。そのデータは、元のマリーマンの輪郭と寸分違わぬものだった。しかし、奇妙な点があった。そのデータには、地元住民によって消されたはずの“局部”が完璧に再現されていたのだ。

「一体どこから、このデータを手に入れたんだ?」

 ターナー氏が問い詰めると、測量士は「絶対に口外しないと誓った」と口を閉ざす。しかし、ターナー氏が修復作業で環境法に抵触し、当局から罰金の支払いを命じられると、事態は急展開する。追い詰められた測量士が、ついにデータの提供元を白状したのだ。その提供者とは、なんとターナー氏に罰金を科した、まさにその「環境保護局」の職員だった。

 環境法を執行する側の人間が、その法律を破る地上絵の作成に関与していた…?この衝撃の事実に、ターナー氏は「環境保護局がマリーマンの制作そのものに関わっていたに違いない」と確信する。しかし、当局はこの疑惑に対し、肯定も否定もせず、ただ沈黙を守っている。

「芸術の半分は謎である」

 結局、26年経った今も、マリーマンの真の制作者は謎のままだ。それは一人の芸術家の壮大な悪戯だったのか、それとも米軍が関与した国家レベルのプロジェクトだったのか。あるいは、複数の人物が関わったプロジェクトだったのか。

 最初のファックスに、こんな一文があったという。

「芸術の半分は謎である。そして、謎であり続けることで、それは不朽のものとなる」

 もしかしたら、犯人が本当に創りたかったのは、地上絵そのものではなく、この“解けない謎”という、壮大な芸術作品だったのかもしれない。そして、その思惑通り、マリーマンは今もなお我々を魅了し、惑わせ続けている。

参考:Atlas ObscuraWikipedia、ほか

TOCANA編集部

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