鉄の樽でナイアガラの滝に挑み、オレンジの皮に敗れた男「ボビー・リーチ」の数奇な運命

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Robert Leach(パブリック・ドメイン/Library and Archives Canada)Wikimedia

 ボビー・リーチという男は、死を恐れることを知らなかった。

 かつてアメリカの移動サーカス団である「バーナム・アンド・ベイリー・サーカス」のパフォーマーだった彼は、あるスタントマンが150フィート(約45メートル)の高さからわずか5フィート(約1.5メートル)のプールへのダイビングに失敗して命を落とすのを目の当たりにした後、なんと自らそのスタントを成功させたという伝説を持つ。

 その後、ナイアガラの滝の近くでレストランを経営していた彼は、客たちにこう豪語していた。「アニー・テイラーにできることなら、俺はもっと上手くやれるさ」。アニー・テイラーとは、1901年に初めて樽に入ってナイアガラの滝下りに成功した人物だ。そして1911年7月25日、リーチは自ら設計した鋼鉄製の樽に乗り込み、彼女に続く史上2人目、男性としては初の成功者となった。

命知らずの男を襲った「まさか」の最期

 この挑戦で彼は両膝蓋骨と顎を骨折し、6ヶ月の入院生活を余儀なくされたが、それでも生き延びた。60代になっても彼の冒険心は衰えず、滝の下流にある激流を泳ごうと何度も試みた。何度も失敗し、地元の川岸の男ウィリアム・”レッド”・ヒル・シニアに救助される羽目になったが、それでも滝や激流が彼を殺すことはできなかった。

鉄の樽でナイアガラの滝に挑み、オレンジの皮に敗れた男「ボビー・リーチ」の数奇な運命の画像2
ナイアガラの滝 Saffron Blaze投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

 しかし、彼を死に至らしめたのは、大自然の猛威でも危険なスタントでもなかった。それは、たった一片の「オレンジの皮」だったのだ。

 1926年、68歳になっていたリーチは宣伝ツアーのためにニュージーランドを訪れていた。そこで彼は、道に落ちていたオレンジの皮を踏んで滑り、足を痛めてしまったのだ。

 単なる怪我と思われたが、傷口から感染症を引き起こし、壊疽(えそ)へと進行してしまった。医師たちは彼の足を切断したが、時すでに遅く、その2ヶ月後、合併症によりこの世を去った。数々の死線をくぐり抜けてきた命知らずの男の人生は、あまりにも皮肉で、あっけない幕切れを迎えたのである。

 巨大な滝にも激流にも屈しなかった男の命を奪ったのが、あまりに些細な日常の落とし穴だったとは。人生とは、どんな冒険よりも予測できないものなのかもしれない。

参考:Boing BoingWikipedia、ほか

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