100年以上も未解読「ファイストスの円盤」の謎、古代クレタ島の“オーパーツ”が語りかけるものとは?

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 ギリシャ・クレタ島。エーゲ海に浮かぶこの島で、1908年、考古学史を揺るがす一つの遺物が発見された。その名は「ファイストスの円盤」。直径わずか16cmの粘土の円盤に刻まれた螺旋状の絵文字は、発見から100年以上経った今もなお、世界中の研究者を魅了し、そして悩ませ続けている。

 これは一体何なのか?古代ミノア人が遺した壮大な詩か、女神への祈りか、あるいは王からの秘密の指令か。この記事では、考古学最大の謎の一つであるファイストスの円盤の正体に、様々な角度から迫っていく。

古代ミノア文明からの謎のメッセージ

 ファイストスの円盤は、1908年7月3日、イタリア人考古学者ルイジ・ペルニエルによって、クレタ島南岸の古代都市ファイストスの宮殿跡から発見された。製作されたのは紀元前1950年〜1400年頃、ヨーロッパ最古の文明と称されるミノア文明の最盛期だ。

 円盤の両面には、中心から外側に向かって螺旋状に、45種類のユニークな絵文字が合計241文字刻まれている。人の顔、動物、道具などをかたどった記号が、垂直線で区切られ、まるで物語を紡ぐように並んでいるのだ。発見現場には、同じく未解読の「線文字A」が記された粘土板もあったが、円盤の文字との直接的な関連性は見つかっていない。

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線文字A ― ハニア考古学博物館蔵の粘土板 Ursus投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

なぜ解読できないのか?考古学者を阻む「三つの壁」

 ロゼッタストーンが古代エジプト文字解読の鍵となったように、多くの古代文字は比較対象や文脈から解き明かされてきた。しかし、ファイストスの円盤の解読はなぜこれほどまでに困難なのだろうか。その理由は、大きく三つの壁に集約される。

1.孤立した存在であること(比較対象の不在)
 最大の障壁は、この円盤が「孤高の遺物」であることだ。同じ文字体系で書かれた他の遺物が一切見つかっていないため、他の言語と比較して解読する手がかりが全くない。

2.文章が短すぎること
 円盤に記された文字はわずか241文字。これは、言語の構造や文法を解析するにはあまりにも短すぎる。もしこれが商業記録のような定型文であれば繰り返しから推測も可能だが、内容は唯一無二のものと見られ、糸口がつかめないのだ。

3.そもそも何語で書かれているか不明なこと
 円盤が書かれたミノア文明期にクレタ島で話されていた「ミノア語」自体が、まだほとんど解明されていない。ギリシャ語の祖先なのか、全く別の言語なのかすら不明なため、どの言語を当てはめて解読すれば良いのかさえ分からないのである。

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ファイストスの円盤の模型 CC 表示-継承 3.0, リンク

解読への挑戦:女神への祈りから日本の神話まで

 この難攻不落の謎に、世界中の研究者が様々な仮説を立てて挑んできた。その解釈は、学術的なものから、時空を超えた大胆なものまで百花繚乱だ。

【学術的なアプローチ】

宗教文書説:言語学者ガレス・オーウェンズ氏は、いくつかの単語を線文字Aと関連づけ、「偉大な女性」や「妊婦」を意味する言葉を特定。「ミノアの女神に捧げられた祈りの言葉ではないか」と推測している。

その他の説:ギリシャ語の「動員宣言」と解釈する説や、日食などを計算するための携帯用「天文記録」だったという説、あるいは詩や呪文、ゲーム盤だったという説まで、専門家の間でも意見は分かれている。

【大胆でユニークな仮説】

 驚くべきことに、ファイストスの円盤と日本の古代史を結びつける説も存在する。

日本の神話との関連:一部のブログや書籍では、円盤の螺旋構造が日本の古代文字とされる「カタカムナ」と似ていると指摘したり、『古事記』に登場する神「彦火火出見尊(ヒコホホデミノミコト)」の名が記されていると主張したりするものまである。これらは学術的な裏付けに乏しいが、古代の謎が人々の想像力を掻き立てる好例と言えるだろう。

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A面 By Gleb SimonovOwn work, Public Domain, Link
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B面 By Gleb SimonovOwn work, Public Domain, Link

「最古の印刷物」?ミノア文明の驚異的なテクノロジー

 ファイストスの円盤のもう一つの驚くべき特徴は、その製作方法にある。記号は一つ一つ手で彫られたのではなく、文字の形をしたスタンプ(印章)を、湿った粘土に押し付けて作られているのだ。

 全ての記号が均一な形をしていることから、これは間違いなく「活字」のようなものを使った技術であり、「世界最古の印刷物」と呼ばれることもある。偽造説が唱えられたこともあったが、記号を一度消して押し直した訂正の跡が見つかっていることや、年代測定の結果から、現在では本物の遺物であると結論づけられている。この一点だけでも、ミノア文明が驚くほど高度な技術を持っていたことの証左だ。

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謎は終わらない

 ファイストスの円盤は、未解読であるがゆえに、私たちに無限の想像の余地を与えてくれる。それはミノア文明の失われた言語を解き明かす鍵なのか、それとも私たちの知らない全く別の文明からのメッセージなのか。

 AIによる統計解析など、新たな技術を使った挑戦も続いているが、決定的な解読には至っていない。いつか、この円盤と対になる「ロゼッタストーン」のような遺物が発見され、全ての謎が解き明かされる日が来るのだろうか。

 それまで、クレタ島の博物館に眠るこの小さな円盤は、古代からの謎めいた微笑みをたたえながら、人類の知的好奇心を永遠に刺激し続けることだろう。

参考:WikipediaPhaistos Disc、ほか

TOCANA編集部

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