飛行機がレーダーから消える日 ― 太陽フレアが引き起こす「ラジオ・ブラックアウト」の恐怖と、その危険度を示す“Rスケール”とは

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　2025年11月4日、太陽は立て続けに2つの巨大な太陽フレアを放出した。それに伴うコロナ質量放出（CME）が地球に直撃する可能性も指摘され、高緯度地域では壮大なオーロラの出現が期待された。しかし、その美しい光のカーテンの裏側で、地球の半球では「ラジオ・ブラックアウト」という、目に見えない脅威が発生していた。

　美しいオーロラと、通信網を麻痺させるラジオ・ブラックアウト。同じ太陽活動から生まれるこの2つの現象は一体何が違うのか。そして、私たちの生活を脅かすブラックアウトの危険度は、どのように測定されているのだろうか。

なぜ通信障害が起きるのか？―オーロラとの“決定的な違い”

　太陽フレアとは、太陽表面で起こる巨大な爆発現象だ。この爆発によって、強力な電磁波（X線や紫外線など）が放出される。光の速さで移動するこれらの電磁波は、わずか8分で地球に到達する。

　地球に到達したX線や紫外線は、上空にある「電離層」に衝突する。電離層は、原子や分子がイオンと電子に分かれて存在する層で、長距離の電波通信において、電波を反射させて地球の裏側まで届ける“鏡”のような役割を果たしている。

　しかし、太陽フレアからの強力な電磁波が衝突すると、電離層内の電子が異常に増加。この過剰な電子が“鏡”を曇らせ、電波の信号を吸収・減衰させてしまう。最悪の場合、信号は完全に失われ、広範囲で通信障害、すなわちラジオ・ブラックアウトが発生するのだ。

　一方、美しいオーロラを引き起こすのは、太陽フレアに伴って放出されるコロナ質量放出（CME）だ。これは磁気を帯びたプラズマの塊で、地球に到達するまでには15時間から4日ほどかかる。この時間差こそが、ラジオ・ブラックアウトとオーロラの決定的な違いだ。ブラックアウトはフレア発生からわずか8分で到達するため、予測や回避が極めて困難なのである。

危険度を示す「Rスケール」とは？

　このラジオ・ブラックアウトの深刻度を示すために、アメリカ海洋大気庁（NOAA）は「Rスケール」という5段階の指標を定めている。「R」はRadioの頭文字で、R1（軽微）からR5（極端）までのレベルがある。

・R1～R2: 短時間の小規模な通信障害。
・R3（強い）: 今回のフレアで発生したレベル。地球の昼側の広範囲で、高周波（HF）無線通信が約1時間ブラックアウト。ナビゲーション用の低周波信号も劣化する。11年の太陽周期で約140回発生する、比較的ありふれた現象だ。
・R4（深刻）: 昼側のほとんどで、HF無線通信が1～2時間ブラックアウト。ナビゲーションにも誤差が生じる。
・R5（極端）: 昼側の全域で、HF無線通信が数時間にわたって完全に途絶。飛行機や船舶との連絡が取れなくなり、衛星ナビゲーションも失われる可能性がある。11年の太陽周期で1回未満しか発生しない、極めて稀な現象だ。

最悪のシナリオ―「キャリントン・イベント」級のフレアが襲来したら

　R5クラスのブラックアウトでも、その影響は計り知れない。特に、HF無線通信は、海洋上を飛行する航空機が地上と連絡を取るための主要な手段だ。もしR5級のブラックアウトが発生すれば、上空の航空機が管制塔と連絡を取れなくなるという、悪夢のような事態も起こりうる。

　さらに専門家が懸念するのが、1859年に発生した観測史上最大の磁気嵐「キャリントン・イベント」級の太陽フレアが、現代の地球を襲った場合だ。電力網や人工衛星への壊滅的な被害が議論されることが多いが、上空で通信手段を失った多数の航空機が、パニックに陥るリスクはあまり語られていない。

　太陽活動は、私たちにオーロラという美しい贈り物を見せてくれる。しかしその裏側には、現代文明のアキレス腱を突く、恐るべき破壊力が潜んでいることを私たちは忘れてはならない。

参考：IFLScience、ほか

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