ブラックホールを「切り貼り」して“ワームホール”を作る？ 数学者が示す驚きの理論

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　SF映画や小説でおなじみの「ワームホール」。宇宙の遠く離れた場所を一瞬で移動できるこのトンネルは、現時点ではフィクションの産物であり、実際に宇宙空間で発見されたわけではない。しかし、科学者たちは長年にわたり、物理学の法則上、その存在が決して不可能ではないと主張し続けてきた。

　そして今、新たな数学的アプローチがこの議論に一石を投じようとしている。ジャドブプル大学の数学者ファルーク・ラハマン氏とイェシーバー大学の博士課程学生アーリヤ・ダッタ氏のチームが、2つのブラックホールを数学的に「切り貼り」することで、ワームホールを形成できるとするモデルを発表したのだ。

数学的な「切り貼り」が生む宇宙のトンネル

　彼らの論文は、国際的な理論物理の学術誌『International Journal of Geometric Methods in Modern Physics』への掲載が承認されており、幾何学と物理学を融合させた大胆な仮説を提示している。

　ここで言う「切り貼り」とは、工作のようにハサミと糊を使うわけではない。これはトポロジー（位相幾何学）などの数学分野で正式に使われる概念であり、ある表面や空間の一部を切り取り、別の部分と繋ぎ合わせる操作を指す。この手法を用いることで、研究チームは2つの異なるブラックホールを繋げ、時空を超えたトンネルを作り出す理論的なシナリオを描き出した。

　ワームホールを理解するには、幾何学的な想像力が必要だ。数学や物理学に詳しい人なら、「クラインの壺」という不思議な立体を知っているかもしれない。これは4次元的な形状で、壺の首が自身の側面を通り抜けて内部に繋がっているような構造だ。自然界に存在するワームホールもまた、私たちの住む3次元の世界では想像しにくい、高次元の構造を持っている可能性がある。

カギを握るのは「エキゾチック物質」

　ダッタ氏とラハマン氏のモデルにおいて、単に空間を繋げるだけではワームホールは安定しない。そこで登場するのが、「カルブ・ラモン場」と呼ばれる特殊な理論的枠組みだ。

　専門的な用語を噛み砕くと、これは「ひも理論」に関連する概念で、私たちが普段観測している宇宙の物理法則（ローレンツ対称性など）が適用されない特殊な場を想定している。この場においては、通常の物質とは異なる挙動をするエキゾチック物質が存在できるという。

　ダッタ氏によれば、ワームホールを構築するためには「負のエネルギー密度」を持つ非常に特殊な物質が必要となる。これは、宇宙の大部分を構成しているとされるダークマター（暗黒物質）やダークエネルギーに近い性質を持つものだ。研究チームは、このエキゾチック物質をブラックホール同士の接合部に詰め込むことで、トンネルを支える役割を果たせると考えている。

理論上の「安定性」と今後の展望

　数学的な操作として、彼らは特殊な場の条件を整え、そこから2つのブラックホールを切り出し、エキゾチック物質を接着剤のように使って貼り合わせるモデルを構築した。

　計算の結果、このワームホールは、トンネルの「喉」のサイズやその他のパラメータが特定の条件を満たす場合に、安定して存在できる可能性が示された。もちろん、これは現在の標準的な物理モデルの数値をそのまま当てはめると不安定になるが、数値の解釈をわずかに変えたり、未解明のパラメータを調整したりすることで、理論的な整合性が取れるという。

　多くの要素がまだ仮説の段階にあるとはいえ、この研究はこれまで接点のなかった数学の概念同士を結びつけた点で画期的だ。ブラックホールの彼方に広がる可能性、そしてダークマターのような未知の物質が果たす役割について、私たちは科学的な想像力をさらに広げる必要があるのかもしれない。

参考：Popular Mechanics、ほか

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