色は実在しない!? あなたが見ている「赤」は脳が描いた幻かもしれない、哲学者も揺れる「クオリア」という不穏な問い

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 夕焼けの茜色、熟したトマトの赤。私たちは当たり前のように色を「見て」いるが、その色は本当に世界の側に存在しているのだろうか。

 科学者や哲学者の間では、色は物体そのものの性質ではなく、目と脳が光を処理した結果として生まれる「知覚」にすぎないという議論が続いている。しかも、あなたが見ている赤と隣の人が見ている赤が同じだという保証は、どこにもないというのだ。

色の正体は「波長」と「網膜」と「脳」の共同作業

 この問いを考えるうえで象徴的なのが、ロイス・ローリーの1993年の小説『ギヴァー 記憶を注ぐ者』だ。違いを消し去った管理社会で、住民は遺伝子操作によって色覚を奪われている。11歳の主人公ジョナスは、同級生フィオナの髪が一瞬「変化した」ように見えて戸惑うが、彼はそれを言葉にできない。その正体は「赤」だった。

 物理的に見れば、色とは太陽光が周囲の物体とぶつかった結果にすぎない。さまざまな波長の光子が物体に当たり、吸収されなかった光が反射して目に届く。光は角膜で曲げられ、虹彩が瞳孔の大きさを調整し、水晶体が網膜へと焦点を結ぶ。

 網膜には2種類の視細胞がある。薄暗い場所で働く「桿体(かんたい)」は波長を区別できないため、暗闇では世界が灰色に見える。一方、明るい光に反応する「錐体(すいたい)」は、おおむね赤・緑・青の波長にそれぞれ敏感で、その信号が視神経を通って脳の視覚野に届く。

 残りを埋めるのは「経験」だ。脳は周囲の照明を勘定に入れるため、色付きの照明の下でも見慣れた物はいつもの色に見える。私たちが見ている色は、脳による補正済みの映像というわけだ。

誰とも共有できない「クオリア」の謎

 ここで浮上するのが、色は「クオリア」ではないかという考え方だ。クオリアとは、各人に固有で物理学では数値化できない感覚体験を指す。科学者と哲学者の双方で議論の分かれる、いわくつきの概念である。

 赤い光の波長は測定できる。しかしジョナスがフィオナの髪に見た「あの感じ」は、彼だけのものだ。同じ料理を食べても人によって味の感想が違うのと同じ理屈だが、物理的な現実は共通しているため、感想がまったくかけ離れることもない。

 人間に見える光は、紫外線と赤外線の間のごく狭い帯域にすぎないという点も見逃せない。それでも私たちは、その中で最大1000万色を見分けているとされる。ガンマ線や電波で宇宙を観測する望遠鏡のデータが「色」に変換されて公開されるのも、人間の目では本来捉えられない世界を理解するための工夫だ。

白と金か、青と黒か。2015年の「ドレス論争」

 色が主観的であることを世界中に見せつけたのが、2015年にネットを騒然とさせた「ドレスの色論争」だ。同じ写真が、ある人には白と金、別の人には青と黒に見えた。

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画像は「Tumblr」より

 実物は青と黒だったが、夜型で朝寝坊を好む人ほど青と黒に見えやすく、日光に慣れた早起きの人ほど白と金に見えやすい傾向があったという。写真のぎらつきも色を歪めており、青と見抜いた人でさえ、補正後の画像の暗さには驚いたそうだ。

 万物は物理で説明できるとする唯物論者と、そうではないとする立場の論争は、おそらく永遠に決着しないだろう。それでも「十人十色」とはよく言ったもので、私たちは一人ひとり、自分だけの色彩世界に生きているのかもしれない。

 色が「実在」するかどうかは、言葉の定義次第だ。ただ、ジョナスが言葉にできないまま心を奪われたあの赤が、脳の生んだ幻にすぎないとしても、その美しさまで誰かに否定されることはない。

参考:Popular Mechanics、ほか

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