“太陽を暗くする技術”をめぐり各国が争ったら… 模擬交渉が映し出した、予想を超えた惨状

空に微粒子をまいて太陽光を跳ね返し、地球の気温を下げる。SFのような「太陽を暗くする」技術をめぐり、各国が本気で争ったらどうなるのか。その答えを探る模擬交渉が英国で行われ、結果は関係者の予想をはるかに上回る惨状だった。
舞台はロンドンのクイーン・メアリー大学。参加者が目の当たりにしたのは、科学より国益が優先される冷たい現実だったという。
「太陽放射改変」をめぐる20数人の模擬国連
この演習は、リーズ大学で国際関係論を教えるダニエル・ヤング助教が企画したもの。英国政府が出資する研究機関「ARIA(先端研究発明庁)」の支援を受け、外交の専門家や科学者、軍関係者、元政府職員ら20数人が世界各地から集まった。
参加者は各国政府、気候系NGO、先住民団体、テック企業などの役を割り振られ、急ごしらえの国連委員会という設定で議論を重ねた。会合は「現在」「2027年9月」「2028年9月」の3つの時点で開かれ、段階ごとに新技術の進展が投入されて緊張が高まっていく仕組みだ。
テーマとなった「太陽放射改変」は、二酸化硫黄などの粒子を大気中に散布して日光の一部を反射させる技術の総称。大規模な火山噴火が地球を0.5度以上冷やす現象を人工的に再現するものだが、サハラ以南のアフリカの乾燥化や大西洋の熱帯低気圧の激化を予測するモデルもある。散布をやめれば気温が急反発する恐れも指摘されている。
「中国が実験している」は思い込みだった
初回の会合から、場を支配したのは不信と偽情報だった。米国役と中国役はともに、自国の研究を縛る合意には署名できないと表明。米国家安全保障担当の役を務めた米陸軍のジェフリー・ニールセン少佐は、中国に有利な合意なら、合意がないほうがましだという立場だったと振り返っている。
さらに運営側がロシア役に「ベーリング海峡付近で米国の地球工学研究機を発見した」という情報報告を渡すと、実際に研究飛行を行っていた米国役はこれを偽情報だと非難した。一方、中国役がスペースX役に技術共有を持ちかけると、スペースX役は即座に米国へ通報。米国は国際調査を要求し、交渉は空中分解した。
ニールセン少佐は中国の動きを暴いた「大勝利」だと高揚していたが、ヤング氏によれば、ゲーム内の中国は実際には実験などしていなかった。全員が「相手は全速力で開発している」と思い込んだまま部屋を後にしたのだ。少佐は個人の立場として、これこそ地球工学の軍拡競争が起こり得る姿だとの見方を示している。
誰も聞かなかった科学者の声と、化石燃料の影
技術助言役の気候研究者コリーン・ゴルジャ氏は、各地域の気象への影響を示すシミュレーターまで用意していたが、ほとんど相手にされなかった。質問が来ても、自国に都合のいいデータを引き出すための誘導ばかりだったという。
最終日、米国とサウジアラビアが共同で行った試験による大規模なエアロゾルの雲が検知される事態に。監視網の構築に科学の知見が必要とされたその時、ある気候NGO役が彼女に資金提供を申し出た。だがこのNGOの背後には化石燃料業界がいたことが発覚し、彼女の信用は一気に崩れ去った。ロシアや米国など一部のプレイヤーはその正体に気づきながら、自分たちに有利だとして黙っていたという。
最終日の終わり、ゴルジャ氏は涙を流していた。合意は最後まで成立せず、最終報告書は、演習を動かしたのは気候への懸念ではなく戦略的競争と国家主権だったと結論づけている。
地球の「サーモスタット」を握るのは誰か
もちろん、この演習は未来予測ではない。結果はゲームの設計や参加者の顔ぶれに左右されるうえ、実際の外交経験が乏しい参加者も多かった。
ただ、現実の動きは確実に速まっている。米国とイスラエルのスタートアップ「スターダスト・ソリューションズ」は昨年6000万ドルを調達し、イーロン・マスク氏も8月、X上で大規模な地球工学の必要性を訴えた。元国連顧問のシンシア・シャーフ氏は、統治の判断を迫られるのは15年後ではなく、今後10年以内だろうと見ている。
演習後、ゴルジャ氏は故郷の海辺の町に戻り、地元で防潮堤づくりを支える計画だという。演習が架空の物語で済むのか、それとも予行演習だったのか。人類が気温のつまみを手にする日は、思ったより近いのかもしれない。
参考:WIRED、ほか
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