【TOCANA的UMAファイル #25】「チュパカブラ」 ── 「犬です」と鑑定されても、まだ終わらない吸血怪獣

2000年の夏、中米ニカラグアの大学の研究者が、村じゅうを震え上がらせた“吸血怪獣”の骨を調べてこう述べた。「未知の動物ではない。犬だ」。だが、仕留めた農場主と村人たちは首を縦に振らなかった。「歯がピンク色だった」「立ち方が違う」──。
基本データ
名前:チュパカブラ(Chupacabras)。スペイン語で「ヤギ(cabra)を吸う(chupar)者」
生息地:プエルトリコを震源に、メキシコ、チリ、ニカラグアなど中南米各地からアメリカ南部まで
初出:1995年、プエルトリコ。名付け親は、ラジオ番組でこの騒動を取り上げた地元のコメディアン、シルベリオ・ペレスだとされる
姿:初期の証言では、身長1メートル前後の二足歩行で、背中にトゲが並び、カンガルーのように跳ねる。のちに毛のない犬のような四つ足の姿が主流になる
由来:家畜に穴を開け、血を吸い尽くすと語られたことから
事件簿
1995年3月、プエルトリコで羊8頭が、胸に3つの穴を開けられ、血を抜かれた状態で見つかったと報じられた。同年8月には、カノバナスに住むマデリン・トレンティーノが、背中にトゲのある奇怪な生き物を目撃したと証言する。この証言がチュパカブラの“原典”となり、噂は一気に中南米へ広がった。カノバナスの町長ホセ・“チェモ”・ソトは、ヤギをおとりにした山狩りまで率いたそうだ。
2000年8月、ニカラグア西部のマルパイシージョ周辺で、羊が次々と殺された。数十人の農家が罠を仕掛けたが、2週間ほど空振りが続く。ついに農場主ホルヘ・ルイス・タラベラが、羊を狙いに来た獣にショットガンを浴びせたものの、獣は闇に消えた。数日後、空を舞うハゲワシに気づいた見張り番が、近くの洞穴で死骸を見つける。ハゲワシについばまれ、ほとんど骨になっていた。地元の獣医は「遺伝子工学で生まれた雑種かもしれない」と語り、骨格はニカラグア国立自治大学レオン校へ。そこで出たのが、冒頭の「犬だ」という見立てである。
ホントカナ?
正体候補ははっきりしている。ニカラグアの骨も、のちにアメリカ・テキサス州で「チュパカブラの死骸」と騒がれた動物たちも、調べてみれば皮膚病で毛が抜けた犬やコヨーテだったとされる。一方、1995年版のトゲ付き二足歩行の姿については、懐疑派のベンジャミン・ラドフォードが、同じ年の夏に公開されたSF映画『スピーシーズ 種の起源』の怪物とそっくりだと指摘した。トレンティーノは目撃の前に、この映画を観ていたのだ。
だが、当のトレンティーノの受け止め方は真逆だった。映画の怪物について、彼女は「背中にトゲがあって、チュパカブラにそっくりだった」と語っている。彼女の中では、映画のほうがチュパカブラに似ていたのである。
しかも、二つの説はそれぞれ半分しか説明できない。疥癬の犬は跳ねないし、背中にトゲも生えない。映画の怪物は、ニカラグアの羊を襲えない。それなのに、骨になった獣を見に来た人々は、その背骨に「ワニのトサカのような突起」があったと口々に語ったという。犬の骨に浮かんだ、1995年のトゲの面影。二匹の怪物は、いったいどこでつながったのか。

TOCANA的まとめ
チュパカブラがここまで愛されたのは、ラジオの笑い話から生まれた親しみやすい名前と、家畜を失う農家の不安に“顔”を与えたことの両方があったからだろう。カノバナスのソト町長は、最初の目撃から17年後の2012年にも「チュパカブラを捕まえに行く準備はできている」と報じられた。鑑定がどう出ようと、チュパカブラは中南米の暮らしのすぐそばで、いまも元気に生き続けている。
トリビア
もともとのスペイン語「チュパカブラス(chupacabras)」は、1匹でも複数でも同じ形の言葉だ。語尾の「s」を複数形とみなして、あとから単数形「チュパカブラ」が生まれたとされる。日本でおなじみの呼び名は、いわば“1匹ぶん”に切り詰められた名前なのである。
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