【TOCANA的UMAファイル #30】「ヒバゴン」 ── 役場が「終息」を宣言した獣人、半世紀後に係ごと帰ってくる

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 1975年、広島県の旧西城町が、ある騒動の「終息宣言」を出した。相手は災害でも疫病でもなく、正体不明の毛むくじゃらの獣人である。役場は担当の係を置き、目撃者に「迷惑料」まで払ったうえで幕を引いた。それから半世紀、終わったはずの係が復活している。

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基本データ

名前:ヒバゴン

生息地:広島県庄原市(旧比婆郡西城町)の比婆山周辺

初出:1970年7月20日

姿:二足歩行の類人猿型。身長は1.5〜1.6メートルほどとされ、顔は逆三角形。ゴリラに似た体つきで、毛は黒または濃い茶色

由来:出没地の比婆山から。名付け親は当時の中国新聞庄原支局長とされる

事件簿

 始まりは1970年7月20日の夜8時ごろ。ダム近くを走っていたトラック運転手の前を、ゴリラのような怪物が横切って林へ消えたという。8月26日の中国新聞が「比婆山山ろくで類人猿騒ぎ」と報じると、騒ぎは全国に広がった。各地から調査隊が訪れたが、正体はつかめなかった。

 取材攻勢に疲れ果てた目撃者に、町は5千円の「迷惑料」を支払った。同じころの役場の初任給は1万4900円だったと伝わるから、かなりの額だ。1971年には問い合わせに対応するため、役場に「類人猿係」(「類人猿相談係」とも。通称ヒバゴン課)が誕生する。

 目撃情報は29件を数えたが、1974年10月を最後に途切れた。翌1975年、町は終息宣言を出し、係も廃止された。正体は不明のまま、騒動だけが片づいたのである。

ホントカナ?

 正体候補の筆頭は、当時からサルである。ほかにツキノワグマ、動物園から逃げたゴリラといった説も語られた。ただ、身長150センチを超えるニホンザルの発見例はないとされ、サル説は大きさでつまずく。

 決定打になりそうだったのが、1974年に撮影された1枚の写真だ(撮影日は8月とも10月とも)。ある男性がヒバゴンに違いないと考えて撮ったものの、像は不鮮明で、専門家の見立てはサルかクマ。撮影者本人ものちに「ヒバゴンではない。サルだ」と語ったという。一方で、他の目撃者からは「自分が見たヒバゴンはこんなものではなかった」との声も上がった。片づいたのは写真1枚だけだった。

 そして2024年8月、庄原市内の70代男性が自宅近くで黒っぽい大型の動物に出くわす。男性はサルだと思い、「サルさん、サルさん」と声をかけた。相手はゆっくり立ち去ったそうだ。半世紀前はヒバゴンだと思って撮った本人が「サルだ」と言い、今度はサルだと思って呼びかけた相手が、ヒバゴンの再来として語られている。

 その後の情報もややこしい。「ニホンザルの顔は赤いが、黒かった」「ひょうたん顔ではなく丸顔だった」。身長175センチほどという話もある。やけにサルに詳しい人たちが、サルではないと言っているのだ。サルとヒバゴンの境界線は、50年たってもまだ引けていない。

TOCANA的まとめ

 なぜこの町で、ヒバゴンはこれほど愛されたのか。半世紀前の5千円は、疲れ果てた目撃者のためのお金だった。復活した類人猿相談係も、地元の情報サイトによれば、目撃者が安心して話せる場をつくり、中傷から守るのが目的だという。この町が守ってきたのは怪物の正体よりも、「見た」と言う人だったのかもしれない。

 いまや備後西城駅はヒバゴンの情報拠点となり、町にはヒバゴン丼やヒバゴンネギが並ぶ。町の観光協会を中心に映画の制作も進み、2027年春に公開予定だ。役場の宣言ひとつで終わらせるには、この獣人は町になじみすぎたのである。

トリビア

 1970年12月、吾妻山の雪の中で見つかった足跡は、警察署員が石こうで型を取ったという。この「ヒバゴンの足形」は、2020年の中国新聞で庄原署に残るものとして紹介された。

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