「ネッシーは存在しない」50年間ネス湖を見つめた研究者が出した結論と、それでも目撃者は正しかったという逆説

Photo: M. A. Wetherell / Wikimedia Commons (Public Domain)

 ネッシー研究の世界で、ひとつの時代が幕を下ろそうとしている。半世紀にわたってスコットランドのネス湖に張りつき、怪物の正体を追い続けてきた博物学者が、ついに「ネッシーは伝説にすぎない」との結論を公にしたのだ。

 その人物とは、エイドリアン・シャイン氏(76歳)。ネス湖調査の第一人者として知られる彼の結論は、しかし単純な「否定」ではなかった。

少年時代の「大海蛇」からネス湖の湖畔へ

 シャイン氏がネッシーの存在を知ったのは1957年、まだ少年だった頃だという。同じ年、イングランド東海岸で人生初の「大海蛇」を目撃したとも語っている。

 1973年、彼はロンドン南西のサリー州の自宅を離れ、スコットランド高地へ移り住んだ。そして湖の深部と怪物伝説を探る研究・自然史プロジェクト「ロッホ・ネス・プロジェクト」を立ち上げる。

 彼が関わった調査は大規模だ。24隻の船を動員し、湖の端から端までソナーで走査した「オペレーション・ディープスキャン」では、指揮を執る一人を務めた。

 1994年には「ロゼッタ・プロジェクト」を率い、湖底から長さ約5.8m(19フィート)の堆積物コアを6本掘り出している。湖の歴史を封じ込めた、いわば「タイムカプセル」だ。

「人々は何を見たのか」を追い続けた50年

 ところが、シャイン氏の考えは早い段階で変わっていた。1975年頃にはすでに懐疑的になっていたという。

 目撃者が大きな生き物を見たと報告しても、それが本当に大きな生き物だったとは限らない——彼の関心は、怪物そのものよりも「人々が湖の上に何を見ていたのか」へと移っていった。本人も、50年間ネッシーを探していたわけではなく、目撃の背後にある実体を探ってきたのだと振り返っている。

 その成果をまとめたのが、新著『A Naturalist’s View of the Loch Ness Enigma』だ。シャイン氏はこの本で、ネッシーを現代でもっとも有名な神話の一つと位置づけた。

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ネッシーを「殺した」のではなく「取扱説明書」を書いた

 興味深いのは、シャイン氏が目撃者たちを嘘つき扱いしていない点だ。

 彼によれば、人々が語る奇妙な現象は、ネス湖ならではの特殊な環境が生み出す本物の現象だという。ほかの湖でも似たことは起きるが、そこでは別の何かとして解釈される。つまり目撃者は責められるべきではなく、むしろ正当に評価されるべきだというのが彼の立場だ。

 そのうえでシャイン氏は、ネッシーも、私たちが名前を付けてきた自然界のほかの錯覚と同じくらい「実在する」ものだと語る。自分は怪物を葬ったのではなく、その見え方を解き明かす手引書を書いたのだ、と。

 研究の第一線からは半ば退いた今も、シャイン氏は湖畔の町ドラムナドロキットにある「ロッホ・ネス・センター」にたびたび姿を見せているという。

 自分の目で見たものをどこまで信じてよいのか。彼の50年は、その問いを読者に投げかけている。

 もっとも、シャイン氏自身、研究によって怪物の不在を完全に証明できたわけではないと認めている。誰よりも長く湖面を見つめてきた男でさえ、「絶対にいない」とは言い切れなかった。ネッシーを信じたい人にとっては、それだけで十分な希望だろう。

参考:Metro、ほか

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