猿と魚を縫い合わせた「人魚」が19世紀の米国で進化論争を巻き起こした!? 日本の漁師が生み、興行師バーナムが売り込んだ「フィジーの人魚」の正体

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 人魚と聞けば、長い髪をなびかせた美女を思い浮かべる人が多いだろう。だが19世紀のアメリカで客を呼んだ「フィジーの人魚」は、上半身が猿、下半身が魚という、美とはほど遠い代物だった。

 正体は、両者を縫い合わせた作り物である。それでも当時は一部で、陸と水の生き物をつなぐ「失われた環(ミッシングリンク)」ではないかとまで見られていた。

 新発見の話ではない。コロラド大学ボルダー校で文章・修辞学を教えるジャック・デイリー氏が学術系ニュースサイト「The Conversation」への寄稿でこの怪物の来歴をひもといており、たどっていくと話は意外にも日本へ行き着く。

美女の宣伝につられた客が見た「干からびた怪物」

 興行師P・T・バーナムがこの人魚を披露したのは1842年。マンハッタンで自ら運営するアメリカ博物館で、フィジー諸島に由来する世界一の珍品という触れ込みだった。

仕掛けは周到で、その手口はバーナム自身が自伝に記している。まず新聞各社に手紙を送り、グリフィン博士なる人物が人魚の骨格を持っていると広めた。博士の正体は、共犯者のリーバイ・ライマンである。

 さらに、展示の日程を載せ、人魚の妖艶さを強調したパンフレットを市内に数千部もばらまいた。

 ところが来館者の前に現れたのは、本人いわく、黒ずんで干からびた醜く小さな標本だった。体長は約90センチ。口を開け、尾を折り曲げ、両腕を振り上げた姿は、激しい苦しみの中で息絶えたかのようだったという。

 美女を期待した客には、とんだ肩透かしである。それでも一目見ようと大勢の見物客が詰めかけた。

 自伝には、博物学者に真贋を尋ねた話も出てくる。相手の答えは、どう作ったのか見当もつかないが、こんな歯や腕や手を持つ猿も、こんなひれの魚も知らない、というものだった。それを聞いたバーナムが選んだのは、人魚を信じることにする、という道だった。

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不妊の流行を予言した? 日本の漁師が生んだ「人魚」

 デイリー氏によれば、この種の細工は400年以上前に日本と東インド諸島で生まれた伝統的な造形物だという。日本のものは魚の下半身に猿か張り子の上半身を付けた作りだった。

 背景にあるのが、呪いをもたらすとも永遠の命を授けるとも考えられた日本の妖怪としての人魚だ。西洋の人魚と違い、その姿はグロテスクだったと同氏は説明する。

 バーナムの個体も、19世紀初頭に日本の漁師が作ったものだとされる。漁師は自分が捕らえたと称し、この人魚が不妊の流行を予言したと吹聴した。町の人々が救われる唯一の手段は、人魚の絵を持つことだったという。なんとも都合のいい救済策である。

 これをアメリカ人船員が買い取り、息子が1842年にボストン博物館の学芸員モーゼス・キンボールへ売却。キンボールから見せられたバーナムが先の作戦を練り上げる。「フィジー」の看板とは裏腹に、出自は日本だったわけだ。

猿に爬虫類、張り子まで、個体ごとに違う「人魚」の中身

「フィジーの人魚」は1体ではない。バーナムの個体は猿と魚を組み合わせたもので、バーナムの博物館かボストン博物館の火災で焼失または損壊したとみられている。

 オハイオ州スプリングフィールドのクラーク郡歴史協会には、1906年に寄贈された別の一体がある。アメリカ人船員が日本から持ち帰ったもので、顔をゆがめ、奇妙な歯と大きすぎる鉤爪を持ち、灰色の産毛に覆われている。

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 デイリー氏が見たデンバー自然科学博物館の展示品は、上半身が張り子だ。博物館はこれを複製としている。また、バーナムのものとは別の個体をスキャンした過去の調査では、魚と猿に加えて爬虫類まで混ざっていたことが分かっている。

 現代の科学者は、こうした「人魚」を進化の環とする見方を否定している。デイリー氏も見世物小屋の作り物の典型と位置づけ、当時の観客を引きつけたのは進化と科学をめぐる論争があったからだと見ている。

 こうして継ぎ目はとうに暴かれた。だが古代バビロニアの半人半魚オアンネスからギリシャ神話のセイレーン、童話『人魚姫』まで、人は人魚を語り続けてきた。スキャンで分かるのは標本の中身だけだが、海のどこかに本物がいてほしいという気持ちまでは、写らないのだ。

参考:The Conversation、Daily Mail

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