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――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

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『血を吸うカメラ』
1960年・イギリス(1961年、日本公開)
監督/マイケル・パウエル
脚本/レオ・マークス
出演/カール・ハインツ・ベーム、アンナ・マッセイ、モイラ・シアラーほか

 サイコスリラーの古典と言えばアルフレッド・ヒッチコック監督の『サイコ』(60年)。同時期にイギリスを代表する名監督マイケル・パウエルが撮った『血を吸うカメラ』は、現在「もう一つの『サイコ』」として高い評価を得ている。だが公開当時はマスコミや映画評論家から「映画界の恥」と酷評され、規制の厳しいフィンランドでは1981年の解禁まで21年間にわたり上映が禁止された(同国は『悪魔のいけにえ』も23年間封印)。興行的にも失敗したこの作品で、パウエルが築き上げてきた威信はガタ落ち。その後の彼はろくに作品を撮ることなく業界を去った。

 マイケル・パウエル監督は、20代にヒッチコック監督の助手をして下積みを経験。戦後は名脚本家エメリック・プレスバーガーとコンビを組み、アカデミー賞最優秀作品賞にノミネートされたバレリーナ映画の傑作『赤い靴』(48年)、『ホフマン物語』(51年)などを次々とヒットさせ、それらは今もイギリス映画の古典名作として語り継がれている。

 そんな巨匠のパウエルが主題に選んだのが「ピーピング・トム(のぞき魔)」だった。原題もずばり『PEEPING TOM』。11世紀のイングランドで、圧政領主の夫人ゴダイヴァ(チョコレート「ゴディバ」商品名の元)が、全裸で馬に乗り町中を練り歩く辱めを受けた。民衆は情け深い夫人を気遣い、誰もがその姿を見ることを自重したが、ただ一人、トムという男だけが覗き見した。この伝承が「ピーピング・トム」の語源だ。だが映画の方は覗くだけではすまなかった……。ネタバレは避け、簡単にストーリーを紹介しよう。


【血を吸うカメラの驚愕ストーリー】

 ロンドンで娼婦の変死体が発見される。その顔は、職歴30年のベテラン刑事が過去に見たこともないほど恐怖に歪んでいた。殺人現場でアパートから運び出される死体や、検証する警察官、野次馬などをハンディカメラで動画撮影している男がいる。そいつが犯人のマーク・ルイス(カールハインツ・ベーム)だ。マークの職業は映画カメラマン助手で、ヌード写真撮影の副業もこなしている。マークには密かな趣味があった。女性を撮影しながら殺害し、苦悶する表情や死の瞬間を記録し、それを1人部屋にこもり映写機で鑑賞するのだ。

 そんなヤバイ奴であるマークに、ようやく春がやってくる。家族のいないマークは自宅の各部屋を格安で間借りさせていたが、階下に住むヘレン(アンナ・マッセイ)に興味を持たれていたのだ。ヘレンは美人ではないが、明るく爽やかで好感度の高い女性だ。マークのミステリアスなところに魅かれたのか? ある晩、マークが殺人現場フィルムの鑑賞をしていると、突然ヘレンに訪問される。意表を突かれ慌てるマークだが、喜んで彼女を部屋に入れる。

 ヘレンが何か見たいとせがむと、マークは生態学者の父親が幼少時代の彼を撮影したフィルムを上映する。父親は寝ているマークの顔に光を当て、無理やり起こして泣かせる。キスをしているカップルを覗くマーク。寝ている布団に生きたトカゲを放られ、泣きじゃくるマーク。ベッドに横たわる母親の死体を見ているマーク。その6週間後に来た若い継母のビキニ姿。継母と手をつないで下を向いているマーク。

 何だか怖くなってくるヘレン。マークの父親は、恐れに対する神経系の反応を、自分の子供を実験台に記録していたのだ。いくら仕事とはいえ、完全に児童虐待だ。マークが歪むわけだ。ちなみに、劇中の記録フィルムの父親はパウエル監督本人、さらに子役は監督の実の子である。

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