怪談研究家がゾッとした幽霊話! 首を突き出した婆さんと、突っ込んだ婆さんと、めりこませた男!

 どうも、怪談・オカルトを研究している吉田悠軌です。

 さまざまな人から怪談を取材しているうち、ふいに「ゾッとする瞬間」を体験する時があります。それは内容そのものが怖い場合というよりも、「全く別々の人から聞いた別々の話に、奇妙な共通点があった時」にこそ感じます。バラバラの体験談が繋がった瞬間。遠かったはずの異界が身近に迫ってくるような、リアリティある恐怖を覚えてしまうのです。

 まず、私がHさんという女性から伺ったお話をしましょう。

【Hさんから聞いた話 顔をめりこませた男】

10年ほど前の、とある深夜。

Hさんは、当時付き合っていた彼氏と酒を飲み、そのまま近所を散歩していた。そこは下町の、古い長屋が連なる裏路地。
暗く狭い道を2人、千鳥足でふらふら歩いていたそうだ。

ふいにHさんは、数メートル先の軒下が気になった。ある家の壁沿いに置かれた長椅子に、中年らしき男が1人、腰掛けていたのだ。

男の体は、なぜか道路の反対側、長椅子の後ろのトタン壁に向かっている。

わざわざ狭い隙間に足を置き、壁に顔をもたれかけるようにして座っているのが奇妙だった。

だんだん距離が縮まり、その姿がくっきりと見えてきたところで

(あっ、これはだめだ)

Hさんは、とっさにそう思った。

男の顔は、トタン壁の中にぬうっと入り込んでいたのだ。まるで、壁の向こうにある家を覗いているようだった。

思わず無言で固まったHさんの異変を察したのか、隣の彼が「どうしたの?」と聞いてくる。

「なんでもないふりして。そのまま歩いて」

なるべく落ち着いた小さな声で、Hさんは呟いた。
とにかく、男がこちらを振り向くのが怖かったのだ。

叫び出しそうになる気持ちをなんとか抑え、Hさんは男の横を通り過ぎていった。
それから家に帰り着くまで、生きた心地がしなかったそうだ。

そして翌日。
例の壁の向こうの家が、火事で焼けてしまった。

その家はHさんのマンションから見下ろす場所にあったが、跡形もなく全焼しているのがわかったという。

あの男は、いったい何だったのだろう?

家人に火事を知らせたかったのか、はたまた、家人への怨念で自ら火事をよんだのか。それは判らない。しかしーー。

男の横を通り過ぎた、あの時。

恐怖に負けたHさんは、一度だけちらりと振り向いてしまった。

背筋をピンと伸ばし、膝に握りこぶしを乗せ、前のめりにつきでた頭は、耳から向こうが壁にめりこんでいて……。

あそこで自分が叫び声を上げていたら。

そして男がこちらを振り向いていたら…。

そう思うと、今でもHさんの体には鳥肌が立つのだそうだ。

+++++++++++

 以上が、Hさんの体験した出来事です。これにはまた後日談もあるそうですが、関係者が立続けに火にまつわる事故にあったため「その話は誰にも話さず墓場まで持っていくつもりだ」とHさんは語っています。

 不穏な気配に満ちたこの話は、長らく僕の頭から消えませんでした。

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