バレンティッチUFO事件を検証・最後の肉声「謎の飛行物体がいる…」 忽然と姿を消したセスナ、見つからぬ残骸、 パイロットが見たものとは?

■事件検証Ⅱ(2013年)

 しかし最近、「バレンティッチ事件は解明された」と豪語する者が名乗りをあげた。それが、アメリカのスケプティック(懐疑論者)ジョー・ニッケルとジェイムズ・マクガハである。2人の主張は、アメリカの懐疑主義団体CSIの機関誌「スケプティカル・インクワイアラー」の2013年11~12月号に掲載されているが、果たして彼らの言うとおり事件は解明されたのであろうか。

 考察を始める前に、まずはCSIという団体について述べる必要があるだろう。

・アメリカのデバンカーチーム「CSI」とは?

 CSI(The Committee for Skeptical Inquiry)は、アメリカの懐疑主義団体で「懐疑的調査委員会」を意味する。本来は1976年、CSICOP(サイコップ、超自然現象とされる主張の科学的調査委員会)として設立され、2006年に現在の名称に改称した。

 創立メンバーにはカール・セーガン、リチャード・ドーキンス、マーティン・ガードナー、ジェイムズ・ランディなど、有名な科学者やデバンカーをそろえ、超自然現象とされる事例について科学的な調査を行うことを旨としている。しかし、実際にはUFOや超心理学も含め、科学界から正式に認知されていない事象には否定的な態度を示すことが多く、こうした姿勢を中世の魔女狩りになぞらえる者もある。今回記事を書いたニッケルもCSIの研究員で、マクガハは科学技術顧問を務めている。こうした人物が書いたということを認識した上で、彼らの記事を検討してみよう。


・目撃された光点は、それぞれ独立した星だった!?

 まずバレンティッチが目撃した謎の光点について、彼らは最初に報告されたひし形の4つの光点は「金星、火星、水星とアンタレス」の4つの天体とした。人間はしばしば、闇の中に4つの光点を見ると、四角形をした物体の頂点であるような錯覚をするという科学的見地から導き出された結論だ。

 事件当夜は、これら4つの天体が縦長のひし形に並んでおり、バレンティッチはこれにより、長いひし形の物体が上空を飛んでいると誤認した。実際バレンティッチはそれほど熟練したパイロットではなく、天体を何か異常なものと認識した可能性は排除できない。

 他方、後に報告される緑の光点については「自分のセスナ機の翼端灯を見誤ったもの」だと結論づけた。そして、陸上の目撃者が証言する大きな緑の光点についても、「飛行機が傾いて翼端が上がっていたため、飛行機の上に光が見えたもの」と断言。しかしこの分析は、飛行機の標識灯の上に、それよりずっと大きな緑の光点を見たという目撃者の証言と完全に矛盾することになる。

・バレンティッチ機のセスナ機残骸があった!?

 さらに、ニッケルとマクガハが決定的な証拠として挙げるのが「セスナ機の残骸らしきものを見た」という目撃証言である。記事ではまず、バレンティッチ失踪の1カ月後、海中に軽飛行機の残骸らしきものが目撃されたとの報告を述べた後、事件から5年後にバス海峡で飛行機の残骸の一部が目撃され、認識番号の一部がヴァレンティッチ機のそれと一致したという、公式の目撃証言記録を紹介している。

 しかし非常に奇妙なことに、ひし形の飛行物体や地上からの目撃証言にあれほど批判的な考察を行った2人が、こうした目撃証言にはまったく検討を加えていないのだ。しかも、バレンティッチ機の残骸目撃については1982年にも報告があったが、この証言は後に疑わしいとされたという実例があるにもかかわらずだ。加えてニッケルらが紹介する5年後の報告では「飛行機の認識番号まで確認された」というから、残骸はかなり浅い部分にあったと推定される。それにもかかわらずバレンティッチ機の残骸そのものは、現在まで発見されていないのである。

 あなたはこの事件、どう思いますか?

参考:ヘルムート・ラマー、オリヴァー・ジドラ『UFOあなたは否定できるか』文藝春秋社 「Skeotical Inquirer」November/December2013

■羽仁礼(はに・れい)
一般社団法人潜在科学研究所主任研究員、ASIOS創設会員。

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