撮影:鈴木信彦
ーー一番シャッターを押せなかった時期はいつ頃ですか?
鈴木氏 震災の時ですね。震災の時は街が真っ暗で、渋谷に行こうっていう気にもならなかった。街に出ても人がみんな暗そうに見えたましたよね。みんな真っ暗で明るさがなかった。
ーー20年間渋谷を中心に写真を撮り続けてきたなかで、写真集は手作りした私家版のものが1冊、写真展も、これまで、数えるほどしか開いていません。どうしてでしょうか?
鈴木氏 写真は撮ってるんだけど、発表できるような写真がないんですよ。まだ撮りきれていない気がするんです。周囲で僕を見てくれている人達のなかには、発表するのに十分な量の写真があると思ってくれている人もいると思います。でも、自分が納得しないものは他人に見せられないでしょう。基本的に自分のために撮ってるから。写真集は費用の問題もありますね。
ーー現像から上がってきたスリーブを見て、鈴木さんがいいと思える、発表してもいいと思えるのは何カットくらいでしょう?
鈴木氏 10本撮って2〜3カットしかないことがあります。36枚撮りフィルムのなかに2〜3カットある場合もあるし、1枚もないことが続くこともあります。だから、1本撮って1カットあればいいほうですね。写真展をやるとしたら、400本くらい撮らないとできない気がします。
鈴木信彦氏。撮影:渡邊浩行
ーー近々、写真展を開く予定はありますか?
鈴木氏 10月に新しくできる国立市内のギャラリーでやる予定があります。オープニング記念で、毎月1人の作家を選んで1か月間ずつ展示をする企画があって。でも、展示できる写真がないんですよね。関係者の人にもそのことは伝えたえたんですけれど、「新作じゃなくてもいいから」って頼まれて。古い写真をいいって言ってくれるのは嬉しいです。でも、ちょっと複雑な気持ちもあります。自分の納得のいく写真がコンスタントに撮れていれば「よし、行くぞ」っていう気持ちになれるけど、撮れてないと段々自信が無くなってくるから。これから調子が上がってくる予感がしてはいるんですけれどね。
ーー渋谷で写真を撮っていて、不思議なことに出会ったことはありますか?
鈴木氏 すごく怖い顔の人をみたことはあります。顔がない人。外国人で、事故なのか火傷なのかわからないんですけど、作り物の仮面を被っているような人でした。のっぺらぼうに近い感じで、目はあったけど人工的で。周囲にいる人達もみんな見ていました。一瞬撮ろうかと思ったんですけれど、僕の趣味じゃないから撮らなっかった。その人自身は、普通の人と変わらない振る舞いをしていました。まわりを気にするようなそぶりもなかったし。きっと、そういうちょっと変わった人を撮りたい写真家なら撮ったかもしれないですけど。
ーー20年渋谷を撮り続けた鈴木さんは、10年後は何を撮っているんでしょう?
鈴木氏 今と変わらないと思います。撮る場所とか撮り方とかを変えようとは思ってないですし、写真そのものを止める気もないから。恐らく、このままで撮り続けると思いますよ。他にやることもないですしね。
■鈴木信彦
渋谷を拠点に活動するストリートフォトグラファー。2009年、第26回キヤノン写真新世紀、佳作受賞。
■ホームページ『Tokyo Spiritual』
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