【怪談】窪んだ少女 ― これは、本当にあった話【読者体験談】
■ここからが、恐怖の始まり
Aは一瞬嫌な顔をしたけれど、すぐに「あんなトイレ全然怖くねぇよ」と言って体育館から消えた。ぼくと友人Bは体育館でAが戻ってくるのを待った。
しかし、10分経っても戻ってこない。Bが様子を見に行こうと言い出した。なんとなく、嫌な予感がしたのだけれど、ぼくは断れずトイレに行くことにした。ぼくがそのトイレに行くのは久しぶりだった。なんとなく、田辺がいなくなってお札が消えてから近づかなくなっていた。それはぼくだけじゃなく、生徒みんながそうだった。
生徒の多くが帰ってしまい、木造校舎はとても静かだった。日が落ちかけていて、廊下に生まれる黒い影とのコントラストが、ぼくに妙な不安感を抱かせた。
ぼくらはトイレに入った。3つある個室の一番奥のドアが閉まっている。あそこにAがいると思った。
ぼくはAの名前を呼んだ。だけど、Aは何も返事をしてくれなかった。BもAの名前を呼んだ。でも返事がなかった。ぼくとBは顔を合わせた。
すると、Aが入っている個室から水が流れる音がした。だけど、その水の音はいつまでたっても止まらなかった。ずっと水を流しているのか、古いトイレだから壊れてしまったのか、とにかく水が流れ続けていた。
さすがに不審に思い、ぼくはドアの前に立つと、Aの名前を呼びながらノックした。Bも一緒になってドアを叩いた。
2人がかりでドアを叩いていると、さすがに参ったのか水の音がピタリとやんだ。
だが今度は静まり返ってしまった。
窓から射す陽の光はどんどんと薄くなり、トイレは不気味さを増していく。ぼくはすぐに立ち去りたかった。いっそのことAを置いて帰ってしまいたいたかった。
でも、ふとぼくは思った。このドアの向こうにいるのは本当にAなのか、と。
ぼくらはAがいると思って声をかけたが、返事は何一つ返ってきていないのだ。どうしてか、急に個室の中をのぞきたくなった。
ぼくはしゃがむと、個室のドアと床のタイルのわずか数センチの間からAがいることを確認しようとした。この隙間からAの足が見えさえすれば、Aはそこにいる。
しゃがんで腰を落とし、少々きつい体勢ながらも隙間からのぞきこんだ。その瞬間、ぼくは大きな声をあげて尻餅をついた。
なんとトイレのドアの隙間から、少女がぼくらの方をのぞき返していたのだ。
ぼくは少女と目が会ってしまった。
いや、実際には少女に目はなかった。目があるはずの場所は落ち窪んでいて、黒い淵となっていた。少女の肌は灰色で、老婆のように干からびていたのだ。
少女はぼくに何かを求めるように隙間から手を伸ばそうとしてきた。狭い間から、やせ細った指がガリガリとタイルに爪をたてるよう伸びてくる。
ぼくとBは叫び声をあげてトイレを飛び出し、木造校舎から新校舎へと走り、職員室に飛び込むように逃げ込んだ。すると職員室にAが暗い表情で立っていた。体育の先生がいて、ぼくらを見ると大声で怒鳴った。
なんだかよく分からないうちにぼくとBもAの横に立たされて説教された。体育の先生はぼくらが体育倉庫で遊んでいたことにひどく怒っていた。Aは結局あのトイレには行かず、新校舎のトイレに行ったらしい。トイレを出たところで体育の先生に捕まり、怒られていたそうだ。体育館で部活をしていた誰かがぼくらのことをチクッたのだ。
先生はぼくらがAを残して逃げたと思っていたようで、怒り心頭だった。ぼくは怒られながらもトイレの話を先生にした。しかし先生は全く信じてくれなかった。
結局、その日はそのまま家に帰された。あまりの剣幕で怒られたものだから、帰るころにはトイレでの出来事が記憶から薄まってしまった。
しかし、次の日、ぼくらが見た話をクラスメートにすると、この話は一気に校内に広まった。ぼくとBは二度と同じトイレには入らなかった。ぼくらの話を面白がって、トイレに行く生徒は大勢いた。その中には何かを見たという人もいたし、何も見なかったという人もいた。
ぼくとBが見たものは一体なんだったのか、本当にあのトイレにはヤバイ何かがいたのか、それとも単なる幻覚だったのか。いまとなっては分からない。木造校舎はぼくが卒業して3年後に改装された。そのとき、何か事故が起きたとか、地面から骨が出たとかなんて話は一切聞かなかった。
ただ言えるのは、あの学校にはまだトイレに何かがいるという怪談は残っていて、ぼくらが見た話も実話として後輩に語られている。
ぼくはあのとき以来、あらゆる隙間をのぞくのをやめた。
また目の落ち窪んだ少女と顔を会わせてしまいそうで怖いから。
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2024.10.02 20:00心霊【怪談】窪んだ少女 ― これは、本当にあった話【読者体験談】のページです。怪談、学園七不思議などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで