アインシュタインは超浮気症だった? 脳に異常も? 天才物理学者の知られざる10の素顔【後篇】

【10】壜に詰められ43年、その後、車のトランクに入れられてアメリカ横断 さまよえるアインシュタインの脳伝説(サーガ)

 1955年にアインシュタインが亡くなった時、彼の脳を家族の許可なしに取り出した男がいた!! アインシュタインの剖検を仕切った、プリンストン大学病院の病理学者トーマス•ストルツ•ハーベイだった。

アインシュタインは超浮気症だった? 脳に異常も? 天才物理学者の知られざる10の素顔【後篇】の画像7

 男は脳を自宅に持ち帰り、瓶の中に保存した。病院が臓器を返すよう通告すると、これを拒んだため、ハーベイは職場を追われてしまった。

 後に、アインシュタインの長男ハンスから、脳を研究する許可を得たハーヴェイは、世界中のさまざまな科学者にアインシュタインの脳のスライスを送りつけた。その1人カリフォルニア大学バークレー校のマリアン•ダイアモンドは、アインシュタインの脳には普通の人に比べて、かなり多くのグリア細胞があることを発見した。これは、情報を総合・統合する際に働く細胞のことだ。

 また、マクマスター大学のサンドラ・ウィテルソンは、アインシュタインの脳に、「外側溝。別名シルヴィウス溝(the Sylvian fissure)」と呼ばれるの「溝」がないことを見出した。ウィテルソンは、この「異常」がむしろ、脳内のニューロン間のスムーズな情報伝達を手助けしたのではないかと推測している。他の研究は、彼の脳が一般に比べてより密であること、さらに、数学的能力と関連のある下頭頂葉が正常な脳よりも大きかったことを示している。

 1990年代のはじめ、ハーヴェイは、フリーランス・ライターのマイケル•パタニティと連れ立って、アインシュタインの孫娘と会うためにアメリカ横断を企てた。ハーヴェイの愛車ビュイック・スカイラークを駆って、ニュージャージーからカリフォルニアに向かったのだ。

 このとき、アインシュタインの脳はトランクのガラス壜の中で、ジャブジャブと音をたてて揺れ続けた。パタニティは後に、この体験をもとに『アインシュタインの脳と征くアメリカ横断旅行』という本を著した。

アインシュタインは超浮気症だった? 脳に異常も? 天才物理学者の知られざる10の素顔【後篇】の画像8ハーベイとアインシュタインの脳

 1998年、85歳になったハーベイは、プリンストン大学の病理学者で、自分の後任ポストにあるエリオット•クラウスにようやく、アインシュタインの脳を手渡した。まるでそれを聖遺物(holy relic)であるかの如く、うやうやしく? 何十年も保護したあげくの、 妙にあっさりした幕引きだった。ちなみにプリンストンは、アインシュタインが最後の二十年を過ごした町だった。

 よろしければ、ここで、ハーベイ博士の登場する動画をご覧いただきたい。どうやら彼は、アインシュタインという天才の秘密を、その脳を分析することによって、解き明かしたいという並外れた熱望の虜(とりこ)になっていたらしい。おそらく彼は我慢ができなかったのだ。人類最高の叡智の謎が、精査されないまま、荼毘に付されてしまうことが。


■おしまいに

 さて、いかがでしたか? 真っ暗闇というほどではないけれど、意外に根の暗そうな「天才の創造の舞台裏」…。ひょうきんで、ウィットに冨んだ、ちょっぴりヘンテコなお爺ちゃん的ノリの大科学者の〈心〉の小部屋は、予想に反して、ひどく不器用で、おまけに孤独で、女性から女性へとおそらくは母親のイメージを求めて渡り歩く、そのカサノバ的なロンサムぶりには、なにやら悲壮感さえ漂っていそうな…。

 彼が量子力学が興隆をきわめる時代の流れに逆らってまで、宇宙を〈神〉が創造したとする反時代的な信念を抱きつづけた背景には、こうしたプライベートないくつもの不和が影を落としているのかもしれません。ユダヤ人に生まれついたことと合わせて─―。

 さて、ともあれ、今回を以って「アインシュタイン・ミステリー・シリーズ」のはじまりのつもりです。「翠(筆者)にもわかる特殊相対性理論」「同・一般相対性理論」「アインシュタインと原爆」「アインシュタイン VS 神なるもの」などなど書いてみたいテーマがたくさんあるのです。湯川秀樹にも触れてみたいなぁ。

 なお、このシリーズは、先の「デーモン・コア」を皮切りとする「核ミステリー」とも連動してゆくことになるでしょう。どうぞ、お楽しみに!

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文=石川翠

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