ミイラ化した動物園 ― 人間だけではない紛争地区の悲しい光景=ガザ地区
■悲惨な状況の中で培われてきた稚拙な剥製技術
2009年、2頭のシマウマが空爆により命を失い、ガザ市内の動物園は代替えとして白のロバにペンキでクロのストライプを塗り、それをシマウマとして公開した。このニュースは世界中のメディアを賑わせたことも記憶に新しい。楽しみにしていた子どもたちへのせめてもの努力だったのだろうか。それともそうせざるを得ない現状に対する抗議だったのか、実際そこで関わった現場の人たちの気持ちを推し量ることはできないが、同じように動物園で行われている剥製技術もお粗末な技術レベルである。
動物園のオーナーのアワイダ氏もガザ紛争がはじまった後に、初歩的な剥製技術を学びはじめたという。
「死んだ動物たちを剥製化するというアイデアはガザ紛争がはじまった後に生まれたものなんだ。それから私たちはネットで技術を調べるなど、試行錯誤しながらノウハウを学んできたんだ」(アワイダ氏)
他にもここガザ地区で獣医を営むサミ・カーダー氏も9年前から剥製の仕事をはじめた。パレスチナによるイスラエルへの反乱時に、ブラウニーという名のキリンが死んだ時から剥製ビジネスに対して需要を見出したそうだ。
剥製というよりはミイラと言っても過言ではない佇まいの動物たちは、その過程でホルムアルデヒドとおが屑が材料として使われているという。アワイダ氏は自身が剥製のエキスパートでないことを認識しており未だ棘のあるヤマアラシの加工には頭を悩ませるが、今日も剥製技術の向上に勤しんでいる。ここガザ動物園は、このような風変わりな方法を用いながらも紛争地域での経営をやりくりしようとしている。
パレスチナ経済にとって、イスラエルのガザ地区への軍事攻撃と西岸地区への経済封鎖が大きく影響していると、国際連合貿易開発会議も報告している。政治情勢に大きく影響される現地の人々の心情は安全圏内で暮らす我々にとっては想像もできない。しかし戦争による被害をあえて展示する動物園は、ガザ地区に住む人々の心の癒しになり得るのだろうかという疑問が生まれてくる。
この動物園の存在意義は、ここに住み続けなければいけない住民のためではなく、悲惨な現状を外国メディアを通して世界中に発信するためにあるのだろうか。ガザ紛争の陰で忘れ去られがちな戦争被害者である動物たちが、死んでなお見世物として展示されているここカーンユニス動物園――。いつか子どもたちが純粋に楽しめる場所になる日が来ることを願いたい。
(文=ジョー丸山)
参考:「Daily Mail」ほか
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