■被災地はただただ美しい
何時間か車を走ってようやく海岸の方に近づいてきた。ネットで見ていた被災地の景色が頭の中でオーバーラップする。だんだんと瓦礫の様子が見えてきた。破壊された常磐線の踏切を超えると急に景色が変わった。震災から数カ月たって、ところどころ既に草が生えている。被災地は自然に還ろうとしていた。
一体どういう思いで被災地にレンズを向けていたのかは覚えていない。少なくとも被写体としてはフォトジェニックではある。自然の脅威に圧倒されながら道無き道を走る。もはや地図などない。瓦礫が積み重なったところで写真を撮っていると海岸線の方から警察車両が近づいてきた。なにか法を犯したわけでもないのに感じる背徳感。警察の方は車を止め自分の方に近づいてきて「ご苦労様です」と敬礼して去っていった。報道の方と思われたのであろう。
被災地に入って1時間、私は想像していなかった感情を抱いていた。非難を覚悟でいえば「ただただ被災地は綺麗だった」、そして撮ることに「飽きてしまった」。今思えばそれは当然の話で、被災地がかつてどのような場所であったのか身を持ってしらぬ自分がそこへ行ったところで、本当の悲しみを抱いたり怒りを感じるようなことはないのだ。私にとってはここはこういう場所だと思ってしまえばそれまでなのだ。
被災地はただただ美しい。正直な感想はこれだ。そこが古代ローマの遺跡だと言われればそうなのかと納得さえしてしまうだろう。