■撮り手の想像を超えるダクト写真の世界
――木原さんが撮っているのはビルのダクトなのですが、写真に写っているのは紛れもない異世界。第一印象はエイリアンがどこかの惑星に作った迷宮とか、潰れたまま放置され廃墟化した地下のダンスホール、それどころか、場所も時間もわからない空間を目の前に立って眺めているような不思議な情景でした。実際、木原さんの目にダクトの中はどんなふうに映っているのですか?
木原 僕の肉眼に映るのは作業灯のオレンジ色の光に照らされたものだから、写真のようには映っていないんですよ。それにフラッシュを一発当てて撮るとこうなる。カメラっていう装置が凄すぎるから、とりあえず、自分がヤバいと思ったらシャッターを押しとけっていう、そういう部分が撮影の根本にあります。それで、上がってくるものが自分の想像を超えているのが面白くて。
――写真集の奥付に「脅迫じみた遠近の階調と不気味な図形の連続」という言葉が書かれています。木原さんは直線や曲線で形作られたダクト内部の図形的な見え方に惹かれているのですね。
木原 ダクトを撮り始めてから「図形中毒」になっちゃって。街を歩いていると特に四角形が気になるんです。たとえば、そこに並んでいる四角い本も気になるし、天井にあるダクトへの入り口も四角なんですけれど気になる。四角の中にもう1つ四角があると反応しちゃいますね。それってダクト写真の基本形なんです。中央に四角のフレームがあって、そこからパースが効いて四つの足、線が出ている。こういう図柄って、本能なのかわからないけど、人の心を揺さぶる何かがあるんじゃないかと考えることもあるんですよね。
――脳の扁桃体のような、恐怖や不安に反応する部位に訴えかけるのかもしれませんね。未開人が未知の洞窟の入り口に立った時にはダクト写真と同じような構図を目にすると思うんです。洞窟の中には獲物がいるかもしれない。でも、奥に入ったら命を落とすかもしれない……そいう原始的な感覚が脳内物質を出すのかもしれないですよ。
木原 専門家に一度診てもらいましょうか。