■現場は危ないだけじゃない
――ダクト清掃って危険な仕事ですよね。汚れたダクトそのものがまずは危ない。
木原 危ないですよ。特に、震災の時は東京のビルもヤバかったんじゃないですかね。外から空気を入れるダクトと排気用のダクトがあるんですけれど、空気の取り入れ 口は鳥の羽とか砂ぼこりとか排気ガスで真っ黒。ちょー汚いんですよ。放射性物質がどれだけ濃縮されていたか。各国の大使館では震災直後に「空調止めろ」っていう命令がすぐ出たらしいんですけどね。
――その時、木原さんは?
木原 ダクトじゃなくてビルの屋上にある水槽の清掃をしていました。「関係ねーよ、東京は」って言いながら。放射性物質がなくてもダクトの中は危ないと思います。会社からはマスクを付けろって言われますけど、狭いだけでも苦しいのにマスクを付けるとさらに苦しいからみんな外しちゃう。
――清掃用の薬品も体に悪そうですよね。
木原 厨房の油汚れを落とす薬品を吸いすぎて病院に運ばれることはありますね。中毒を起こしてゲロゲロ吐いちゃったりして。特に夏の暑さで体が弱っている時はその成分の血中濃度が上がるから、点滴を打ってもらっても吐き気が止まらないくらい気持ち悪くなる。病院が清掃会社を役所に訴えることもあるんですよ。「こんな環境で作業員を働かせるんじゃない」って。だから会社はマスクを付けろってうるさく言うんですけれど、慣れるとみんな付けないですよね。天井裏のダクトに入るまでにアスベストがあることもあるし。ネズミの糞とかも。
――仕事をしていて面白いと思うことはありますか?
木原 建物の裏側を観られるのは単純に面白いですよ。デパートとか売り場はB1とかB2までしかなくてもB6まであったりしますから。一番下に空調機があって、滴の滴れる所に作業員用の喫煙スペースがあったり。老舗ホテルの機械室には古い空調機があって、巨大なボイラーから下の側溝に向かって蒸気が出ていたり、扉を開けたら巨大な冷却機があったり。迷宮探検ですよね。男心を沸き立たせる面白さ。
――潜るのは怖くありませんでしたか?
木原 怖いというより慣れるまでは苦しかった。それと、作業灯が触れないほど熱くなるんですよ。それに油かすが付いて発火して煙を吹いたことがありました。身体が引っかかって戻れなくなることもありますね。行くことはできても戻れないかもしれないって思う所にノリで行ったら戻れなくて、焦ったこととか。首の筋がおかしくなるくらい曲げればギリギリUターンできる場所が見つかったからなんとか戻ってこれましたけれど。
――どうにも戻れなくなったらどうするんですか?
木原 スペースがあればダクトそのものを切って助けることはできるけれど、そんなに簡単じゃない。でも、滅多にはないですよ。自力で出られなくて仲間に引っ張ってもらうことはありますね。
――死にそうになったことは?
木原 自分はないですけれど、ダクト内のファンに作業員が巻き込まれた事故とかは聞いたことがあります。ビルの壁面を垂直に落ちているダクトがありますよね。落ちるギリギリの所まで清掃することがあるので、一歩間違ったらビルから落下するのと一緒。あと、地震は嫌ですね。すぐに逃げられないし、ダクトって釣ってあるものだから揺れも大きく感じるから。
――仕事がキツくて危険なぶん、待遇はいいんですか?
木原 特別よくはないですよ。でも、過去を問わず誰でも働けて、その日に金がもらえる。