眼球が平らになる!? 宇宙飛行士の80%が襲われる深刻な目の異変「VIIP」の謎とは?
7月7日に露・米・日の3人の宇宙飛行士を乗せたロシアの宇宙船「ソユーズMS-01」が打ち上げられた。彼らは「国際宇宙ステーション」(ISS)に4カ月間滞在する予定と聞くが、宇宙空間にはまだまだ未知の部分が多く、過去の事例から宇宙飛行士の健康に害を及ぼすことが懸念されている。
■1.0あった視力が0.2に
2005年、国際宇宙ステーションに滞在していたジョン・フィリップス宇宙飛行士は、任期を半分終えたところであった。ある時、地球に目を向けると、何かおかしいことに気づいたという。宇宙飛行士は厳しい健康診査をくぐり抜けて選ばれ、彼もその例にもれず完璧な視力の持ち主であった(最近は募集要項が変わり、コンタクト着用でも許可される)。しかし、地球を見たその時は、目がかすみ焦点を合わせることが難しかったという。地球に帰還後、厳密な検査を受けたところ、かつてあった1.0の視力が、0.2まで下がっていたのである。
NASAはこの問題をさらに調査するため、フィリップス宇宙飛行士にMRI、網膜スキャン、神経学的検査、脊椎穿刺等、数々の検査を実施した。検査の結果、フィリップス飛行士は視力が悪化しただけではなく、視神経も炎症を起こし眼球の裏が平らになり、眼球の脈絡膜にはシワができていた。
半年後、彼の視力は0.4まで回復したが、その後それ以上視力が回復することはなかった。フィリップス宇宙飛行士は完璧な視力の持ち主から一転、メガネ無しでは運転免許を更新できない視力になってしまった。
これは、長い任務に携わる宇宙飛行士の80%に起きる不思議な症候が初めて医学的に確認されたケースである。この症候群は、「視覚障害脳圧症候群 (VIIP)」と名付けられた。地球では人間の体液は重力によって足の方に向かって落ちるが、宇宙空間では体液が頭蓋内に溜まる。その余分な水分が、脳と眼球後部にかかる圧力を高めてしまうことが原因だと考えられる。
しかしこの仮説は理に適ってはいるが、証明することは非常に困難だと科学者たちは気づいた。頭蓋内圧を測定する確実かつ唯一の方法は、宇宙飛行士に脊髄穿刺を行うか、頭蓋骨に穴を開けることから始まる。「これらの方法には感染症を伴う危険性があり、これを宇宙空間で実行するのは正直言ってかなり難しい」とNASAの上級飛行外科医であるJ・D・ポーク医師は言う。
■有人火星探査計画の障害に
この「視覚障害脳圧症候群 (VIIP)」はNASAが計画中の火星旅行において大きな妨げとなりえる。そこで科学者はその原因を見つけようと必死になった。
ドイツの航空宇宙医学研究所のカリーナ・マーシャル・ゲーブル博士は、宇宙における人体の体液の流れを調べるため、被験者の頭を逆さにするテストを行った。しかし地球で行われるこのテストは重力の影響を受ける上、宇宙飛行士が宇宙で暮らす期間と同じ程度の長時間にわたり、被験者を逆さにし続けることはできない。現時点では残念ながら、地球で宇宙と同様の環境を作れないとゲーブル博士は語る。
この問題に取り組むテキサスのヒューストンのベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)の神経内科医エリック・バーシャド博士は、頭蓋内圧を正確に測り、かつ被験者の身体を傷めない方法が今後5年以内に実現しそうだという。その方法の開発者は、ジョージア工科大学の生体医工学者のロス・ エシアー博士だ。
博士は宇宙飛行士の頭に溜まった体液を、脚の方に流す装置の製造に取り組んでいる。しかしこの装置はあくまでも開発段階で、被験者によっては装着すると不快感があり、また「視覚障害脳圧症候群 (VIIP)」を防ぐためには、どのくらいの時間着用する必要があるのかもまだわかっていないらしい。
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2024.10.02 20:00心霊眼球が平らになる!? 宇宙飛行士の80%が襲われる深刻な目の異変「VIIP」の謎とは?のページです。目、NASA、三橋ココ、ISS、視力、視覚障害脳圧症候群などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで