シュレーディンガーの猫を目視できる時代到来? 量子論が思考実験を超え始める!

■スクイーズド光とは?

 量子バックアクション限界の突破を可能ならしめたスクイーズド光とは何なのか? 

 今日の物理学では、光は波動であり量子(粒子)でもある、つまり両方を併せ持つのだが、波動としての性質の光には振幅と位相があり、量子としての性質の光には“ゆらぎ”がある。つまり“振幅ゆらぎ”と“位相ゆらぎ”があるのだ。

「不確定性原理」によって、いずれのゆらぎもゼロにすることはできないのだが、テクノロジーによってどちらかのゆらぎをなるべく小さく狭いものにすることができる。しかしそうした場合、もう一方のゆらぎは大きくなる。

 例えばレーザーポインターがスポーツ選手や航空機に照射される事件が時折起きてニュースになるが、その特徴はかなりの距離を隔てても光が拡散しにくい指向性にある。このレーザー光線はレンズなどを使って、位相ゆらぎをなるべく低く抑えた(コヒーレントスが良い状態)光であり、コヒーレント光とも呼ばれる。

 一方、これとは逆に振幅ゆらぎをなるべく小さく抑えてそのぶん位相ゆらぎの幅が広がるのがスクイーズド光だ。つまるところ研究チームは、今回さらに極端なスクイーズド光を発生させることに成功したのだ。この画期的なスクイーズド光によって量子バックアクション限界を突破する手段を得たことになる。

 そして今回の研究は、通信分野への応用も有望視されている。つまり量子コンピューティングである。量子コンピュータはとにかくケタ違いの性能を持っていて、ランダムアクセスメモリが飛躍的に向上するのはもちろん、演算処理速度が現在のパソコンよりも1億倍速くなるという説もある。また、今回の研究チームの一員であるジョン・トイフル博士によれば、量子コンピュータでは「シュレーディンガーの猫」のような量子的重ね合わせの状態を可能にするため、最小値ビットの「0」と「1」を同時に共存させることができるということだ。素朴な世界観を持つ人間にとっては謎だらけの量子論の世界だが、こうして徐々にその驚愕の世界がわずかでも見えてくるとすれば興味深い限りである。
(文=仲田しんじ)


参考:「Independent」、「IBTimes」、ほか

場末の酒場の片隅を好む都会の孤独な思索者でフリーライター。
興味本位で考察と執筆の範囲を拡大中。
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