脳死者の蘇生実験「リアニマ・プロジェクト」ついに開始へ!! 成功しても“ゾンビ化”する懸念…

■脳死者は回復できるのか?

 さて、本当に脳死から回復するというならば、それは歓迎すべき医療の進歩であろう。だが、多くの専門家は、脳死からの回復というアイデアそのものを疑問視している。そもそも脳死とは、脳全ての機能が不可逆的に回復不可能な状態を指し、人工呼吸器などの補助がなければ心肺機能もやがて停止してしまう。多くの国で脳死が「人の死」と定義されているのはこのためだ。

 Bioquark社の脳死回復試験は、「ReAnima Project(リアニマ・プロジェクト)」という計画の一環である。このプロジェクトの目標は人間の神経の“再生”と“蘇生”だという。

脳死者の蘇生実験「リアニマ・プロジェクト」ついに開始へ!! 成功してもゾンビ化する懸念… の画像3画像は「ReAnima」より引用

 脳死回復試験が成功すれば、患者は最小の認知機能を取り戻すという。だが、それは動く物体を目で追いかけるといったささやかな意識の回復であり、我々の考える回復、つまり話をしたり歩き回ったりするようなものとは程遠い。無論、プロジェクトは脳神経の完全な蘇生、つまり元のように生活できることを究極の目標に掲げている。

 だが、脳は脳死後に融解を始め、20日ほどで形を失ってしまうという。15日もの治療で、脳は崩れてしまわないのだろうか、またその影響はないのだろうかという疑問もある。事故や脳卒中などで脳に損傷を負うと、回復後にも記憶の欠落や人格の変化を起こす場合があることはよく知られている。

 ブードゥー教では健康な人間を仮死状態にし、さらに蘇ったところで神経に作用する薬を与えて精神を破壊、奴隷として使役するという。これがいわゆる「ゾンビ」である。最近では集団で人々を襲うモンスターの印象が強いが、本来のゾンビは薬物で脳や神経にダメージを負わせて生きているだけの状態にした奴隷労働者なのだ。もし仮に、今回の試験で完全に脳死から回復したところで、一度死んだ脳が脳死前の状態へと完全に再生するわけではない。今回の実験が成功したとして、蘇るのは以前の記憶や人格を失ったまさに「生きる屍」でしかないのではないか? そんな想像すらしてしまう。

 動物実験もなく行われる(会社側は適切な動物モデルがないためと主張している)脳死復活試験には、「人体実験」だという批判もある。インドでは現地政府によってストップをかけられたが、今回のラテンアメリカではどうなるか。その動向が注目されている。


参考:「MailOnline」、「Bioquark」、「ReAnima」、「Science」、ほか

文=吉井いつき

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