石川竜一写真集『okinawan portraits 2012-2016』
石川竜一写真集『okinawan portraits 2012-2016』
■ガジュマルの巨木のような太い根の写真集
「写真を選ぶ基準は以前と変わっていない」と石川さんは言う。ところが、本を手にとってページを進めていくと、被写体は変わらず沖縄の人でありながら、写真からは異なる印象を受ける。全体の深み、スケール感が拡大しているように感じられるのだ。
前作では、被写体各々のエッジが際立った肖像写真が中心だった。一方、『okinawan portraits 2012-2016』では、写された人たちが醸すエッジーなナマ感もさることながら、各々の背景にある何か、イメージの向こう側に秘められた物語に意識が向く。1つ1つのカットが連なって、一塊のイメージの束となり、観る者の網膜を浸食する。あえて音楽に例えれば、前作は直線的で疾走感のある3ピースバンドのパンクロックで、本作はさながら重奏的で厚みを持ったオーケストラが奏でるシンフォニーと言ったところだろうか。
人と場所、目の前の事物が有機的に繋がり合い、被写体を取り巻く社会の空気感と生活の匂いが立ち上がる。写真集全体の奥行きと広がりは増し、まるで沖縄の赤い大地にそびえ立つガジュマルの大木のように、そこに生きる人々が繰り返し積み上げてきた、日々の営みに太い根を張っているように感じられる。