【取材】20年以上“人間のマンダラ”を撮り続ける写真家・宇佐美雅浩!分断の地・キプロスを無限スケールの曼荼羅で表現!

 仏教の世界観を1枚の平面で表現したマンダラ。

 写真によって「人間を取り巻く世界の物語」、さしずめ「現代日本のマンダラ」を視覚化する作家・宇佐美雅浩さんの新作展、『Manda-la in Cyprus』が、3月24日まで、東京・市ヶ谷のミヅマアートギャラリーで開催されている。

 作品のロケ地は、キプロス

 四国の約半分ほどの面積のこの小国は、1974年のクーデターに伴うトルコの軍事介入以降、ギリシャ系住民が南の地域へ、トルコ系住民が北の地域へと移動せざるを得なかった分断の歴史を背負っている。

 宇佐美さんの『Manda-la』シリーズは、人物を写真の中央に据え、周囲にその人に関わりのある事物を配置し撮影することで、その人の「人生の物語」を表現する。最初は友人知人の部屋のなかで「一個人の生活のマンダラ」を写すことから始まった。宇佐美さんがまだ美大生だった頃の話だ。

 以来、20年以上をかけて撮り続けるうちに、個人の半径3メートル以内の私的な世界から「アイヌ」や「真言密教」といった、日本のアイデンティティを構成するコミュニティのマンダラへと広がりを見せ、さらには、原爆の落とされた広島や、原発事故に見舞われた福島といった、現代日本を写し出すマンダラへと発展した。


■海を越えた『Manda-la』

【取材】20年以上人間のマンダラを撮り続ける写真家・宇佐美雅浩!分断の地・キプロスを無限スケールの曼荼羅で表現!の画像2

タイトル:マリア・パパドブル・ニコライドゥ 北側、ヤルーサ/イェニ・エレンキョイ 2017現在南側で生活しているギリシャ系キプロス人のマリア・パパドブル・ニコライドゥさんが分断前に住んでいた北側の村に戻った姿を撮影。バックの建物は彼女が昔働いていたタバコ工場。


 そして2016年、『Manda-la』は海を越え、キプロスでのプロジェクトを手がけることになる。

 宇佐美さんがキプロスを撮ることになったのは、EUの文化プロジェクトに招致されたことがきっかけだ。

「EUには『欧州文化首都』という制度があるんです。加盟国のなかから毎年2都市を文化首都に選び、1年を通じて芸術・文化に関するイベントを開催することで相互理解を深めることが目的で、2017年に選ばれた都市の1つがキプロスの街、パフォスだったんです。その『PAFOS2017』というイベントに招かれたのがきっかけです」(宇佐美氏)

 宇佐美さんの作品作りのスタイルは、まずリサーチを行い、それをもとにコンセプトシートと緻密なイメージスケッチを作る。そのうえで、関係者や協力者と話し合い、関係機関と折衝を重ねて撮影に至る。

【取材】20年以上人間のマンダラを撮り続ける写真家・宇佐美雅浩!分断の地・キプロスを無限スケールの曼荼羅で表現!の画像3

画像は、Wikipediaより引用


「キプロスはグリーンラインを挟んで南北2つの地域に分断されていて、リサーチした時期にはこの問題を解決するための交渉が両当局間で進んでいました。まずはそこに興味を持って、そこからどのような写真を撮るのか、キプロスの人々と対話をしながら構想を固めていきました」(宇佐美氏)

 リサーチと現地住民との対話を重ねていくなかで、キプロスで写真を撮る意義、制作意図が見えてきたと宇佐美さんは言う。

「ギリシャ正教徒であるギリシャ系キプロス人と、イスラム教徒であるトルコ系キプロス人。両地域の人々が分断されている現状と、過去の歴史を乗り越えて未来を作ろうと模索している姿は、キプロスに限らず、現在の世界情勢、西側諸国とイスラム諸国の問題ともリンクしますよね。キプロスは小さな国だけれど、ここを撮ることで世界中の人々が共感し、何かを考えるきっかけになる作品を写真で作れないか? って考えたんです」(宇佐美氏)

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