【取材】20年以上“人間のマンダラ”を撮り続ける写真家・宇佐美雅浩!分断の地・キプロスを無限スケールの曼荼羅で表現!

■政治、歴史、民族性からくる困難と葛藤

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タイトル:ダルビッシュ・G・ゼイペック 北側、イェロラコス/アライキョイ 2017。主役のダルビッシュ・G・ゼイペックさんは、人種や国籍など関係なく子供たちにダンスを教えている。大人の決めたルールで子供の権利が奪われている状況を、ゴミ箱のなかに入れられた子供たちという比喩で表現した。ダルビッシュさんは、そんな子供たちの幸福を祈り続けている。


 実際の撮影は予想通りにいかず、トラブル続きだったと宇佐美さんは言う。文化も言葉も人種も違うキプロスでは日本と勝手が全く違う。およそ1年の制作期間で、宇佐美さんは、幾度もトラブルと困難に直面した。

「撮影に入る前は現地人のオーガナイザーを立てて細々した仕事をやってもらう予定でした。でも、実情は全然違った。肝心のオーガナイザーが個人的な都合で早々にいなくなったり、契約書を交わしていたのにその組織のサポートを受けられなくなったり。ギリシャ語とトルコ語がメインの地で、知り合いもいない状態で、制作を手伝ってくれる人が誰もいなくなったのです。にもかかわらず、EU他からの助成で得た予算は組織が握っていて、自由に使うことはできない。他にも、予想外のトラブルの連続でした」(宇佐美氏)

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タイトル:クルトゥルシュ・アルタイリ 北側アウルダーグ/アイルダ 2017。キプロスでは両地域とも徴兵制があり、兵役義務は50歳まで続く。背景ではクルトゥルシュ・アルタイリさんの家族が食事をする日常の生活を描いている。テーブルの上には北側を代表するビール、エフェスが。銃口にさした花は平和への願いを表している。


 イスラム教の影響を受けた北の住民と、ギリシャ正教徒が中心の南の住民、そして、両者の対立の間に入る国連。政治的な利害関係が複雑に入り混じる地域でのプロジェクトだけに、当事者間の思惑とのギャップにも打ちのめされた。

「プロジェクトの前年、2015年には、近い将来に選挙が行われ、この2つの地域が1つになろうという機運が高まっていたんです。バッファゾーンにある空港で撮影をしようと国連の現地機関と折衝していた時、現地の国連職員は『君が写真でやろうとしていること2つの地域を1つにしようと動いている僕らと通じている。許可がおりるだろう』と言っていた。蓋を開けたら、両当局の交渉も一時的に中断し、国連に申請していたグリーンラインでの撮影許可も下りなかった」(宇佐美氏)

 衝撃的だったのは現地の宗教者との交渉だ。

「キプロスの様々な宗教組織はたまに集まり会合を行っています。私がこのプロジェクト交渉のため、ギリシャ正教の指導者と直接お会いした際に、会話の冒頭で彼は、宗教間を超えた、美しいエピソードをたくさんしてくれました。だからこの交渉の冒頭では、平和のためであれば、ギリシャ正教の指導者とイスラム教の指導者は一緒に1枚の写真に一緒に写ってくれるだろうと考えていたのです。イスラム教側も、これより以前に交渉した際に『ギリシャ正教が協力するならこっちも協力する』という姿勢でした。しかし結局、このギリシャ正教の指導者は、聞く耳を持ってくれなかった。『国を1つにという意思を私の作品でアピールすることは、あなたたちの目的にもかなっている』と説得しても、『その必要はまだない。早すぎる』と。確かに、計り知れない歴史と軋轢があるのは私にも理解できる。しかし、宗教者は平和に寄与する者だと思っていたのに、感情的なものが前に立ち、話が先に進まなかった。こちらは、一方的にお願いしている立場だから彼の意思に従うしかない。私の交渉のために4時間近い時間を取ってくれて、しかも紳士的に迎え入れてくれて、と感謝している部分もあるが、内容的にはかなり苦しい交渉でした」(宇佐美氏)

「地元の人々から聞いた話では、ギリシャ正教側はいまだに、キプロスの政治にも大きな力を持っている。彼らは、首都ニコシアの土地を多く所有していて大きな資金力がある。その資金は多くの人々に寄付されており、発言力もあるのでしょう。権力者こそ、柔軟な心で民のことを考えてほしいと願わずにはいられません」(宇佐美氏)

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