人々の生活も変わった。レストランで顔を寄せ合いささやく若いカップルや、モーターボートで水上結婚式を行う新婚夫婦。セグウェイに似た電動二輪車に乗る青年たち。明るく小綺麗な衣服を身につけたOLたちは公園でくつろぎ、フードコートでスナック菓子を食べ食べ読書している少女の姿は日本の郊外型スーパーで目にする風景そのまま。自由で豊かな雰囲気が伝わってくる。
「世界162か国と国交があって、すべての国がアメリカや日本のように敵視しているわけじゃないから、本気で北朝鮮に制裁するつもりなんてないんですよ。経済制裁は機能していないと考えざるをえません」(初沢)
地方はどうなのか? 『隣人、それから。38度線の北』には、日本の報道では知ることのできない、地方を写した写真も含まれている。
街の広場で餌を食む牛や雪の積もった田畑の水たまりで歯を磨く若い男。凍った川の上を自作のソリでスケートに興じる子供たちの姿は、映画で見た1950~60年代の日本の田舎を彷彿させる。決して豊かな印象は受けない。しかし、ひどい貧困も感じない。
「その印象は正しいと思います。地方は確かに貧しい。でも、少しずつ状況はよくなっています。北朝鮮の地方というと、1990年代後半に日本で頻繁に流れた飢餓状態に近い映像のインパクトが強くていまだに影響力を持っています。しかし、今はあの状況にはありません。日本と比べたら圧倒的に貧しいけれど、もはや生存が脅かされるレベルにはない。そのことはきちんと言いたい」(初沢)