■「共感」を軸に北朝鮮を撮る
そもそも、初沢さんが北朝鮮を撮ろうと思った理由には、異なる政治体制を持つ日本の隣国への純粋な興味と、新聞やテレビの一方的な報道に感じた違和感があった。
「北朝鮮に対する違和感に焦点を当てた一方的な報道ばかりが流れ、それを受けた日本人の反応も一方的でした。でも、共感できるポイントもあるはずだと思っていました。私は資本主義社会を手放しで肯定する気もないし、その恩恵を受けて育ってきた者として否定する気もない。ただ、我々が正しくて彼らが悪だと入り口で決めたくはなかった。実際に自分で見て、触れて、丁寧に考えたいと思いました。初の訪朝時はカメラを持たずに行き、そこで感じたことから、違和感ではなく共感を軸に撮ろうと決めたのです」(初沢)
日本のマスコミの報道の傾向は、初沢さんが『隣人』のプロジェクトを始めた8年前から変わらない。むしろ、その一方向性は加速しているように感じる。なぜなのだろう?
「『経済制裁が効いていてほしい、北朝鮮は貧しくあってほしい』という心情で見ているから現実の変化が捉えられないのだと思います。その証拠に、マスメディアの取材で『北朝鮮は豊かになっている』と言うと『豊かなのはピョンヤンだけ。地方では相変わらず餓死者が出ているのでは?』と反論される。ピョンヤンの経済発展は認めざるをえないが地方はいまだに飢えている、と思いたいのでしょう」(初沢)
政治的な部分では、テレビも新聞も「核で日本の安全を脅かす無法国家」「不安定で予測不能な独裁制の敵国」という見方がほとんどだ。確かに、それも北朝鮮という国の一面だし、核武装と拉致問題という国家犯罪が両国間に横たわるゆえの当然な反応だとも思う。
とはいえ、違った視点からの報道がもっとあっていいはずだ。しかし、日本国内で流通する情報に多様さはない。
「北朝鮮の立場に一定の理解を示すニュアンスの報道がない理由はバッシングへの恐れでしょう。『あんな国を許すのか?』『この売国奴め』というような国民、視聴者からの批判が怖くてできないのだと思います。マスメディアは本質的に視聴者が見たいものを見せるものですからね。そのうえ、北朝鮮に対しては自民党から共産党までどの政党も批判的です。そこに個人で切り込むことは、結構な戦いだと思っています」(初沢)