■北朝鮮の案内人たちは親日家
巻末の初沢さんの滞在記には、普段私たちが接している新聞やテレビなどでは報道されない内容が含まれている。北朝鮮政府の案内人と初沢さんのやりとりがその一例だ。日朝関係について本気で議論したかと思えば軽口を叩き合う互いの様子は、敵対国の国民同士でありながら、国家的利害を超えた親密ささえ感じさせる。
「北朝鮮の案内人たちは大の親日家。数ある外国の中から日本を選んで大学で学んだことそのものが、仕事で日本に関わりたい気持ちの表れで、国交正常化の時代が来たら日本の大使館で働きたいという理想があってのこと。なかには植民地支配時代にその人の親世代が日本人によくしてもらったエピソードを持っている人もいます。『日本人は優しかった』とか『助けてもらった』という話を聞く一方で、教科書には逆のことが書かれている。そのことが、日朝関係に関わる仕事をしようと思ったきっかけだ、という案内人もいました。日本語、日本文化を学び、仕事で出会った日本人と対話するなかで日本人を体感する。その過程で日朝関係を動かしたい、国交正常化させて自分も日本に行きたいと思うわけです」(初沢)
「彼らには彼らの都合があって、政府には政府の許せることと許せないことの一線がある。そのギリギリにあるグレーゾーンで、海外からのカメラマンに何を撮らせるかは案内人の判断に委ねられていて、そこには案内人の日朝関係に対する思いの深さが表れます。根底にあるのは、お互いの国が理解し合えるよう、共にやっていきたいという意思。だから『一緒に頑張りましょう』みたいな感覚なんです」(初沢)