果物は“お得意様”に「私を食べて!」と話しかけていることが判明! 果物たちのコミュ力と生存戦略に戦慄
ベリーなど実を結ぶ樹木の生存戦略は、その実を動物に食べてもらって種子を拡散し、生育圏を拡大することだ。この生存戦略に基づき樹木の実は特定の動物種に向けて「ここにいるよ! 私を食べて!」とメッセージを発信していることが徐々に明らかになっている。
■色と匂いで“お得意様”を呼び込む
草木と生物の絶妙な協力関係で成り立っているのが森の生態系だ。豊かな森には実を結ぶ果物もよりどりみどりだが、どうしてこれほどの種類があるのか。
チンパンジーなど果物が主食の動物を果実食動物(frugivore)と呼ぶが、実をならす樹木にとって果実食動物の中でも特定の“お得意様”がいるのかどうか、またどういう戦略で“お得意様”にその実を食べさせているのかを探るといった興味深い研究が最近になって相次いで発表されている。
米デューク大学の進化生態学者であるキム・バレンタ氏をはじめとする国際的な研究チームが、先日専門誌「Biology letters」で発表した研究では、ウガンダの「キバレ国立公園」とマダガスカルの「ラノマファナ国立公園」と、共に自然保護を目的とした森林公園で果樹と果実食動物の関係を、その実の色の観点から探っている。
キバレ国立公園に生息するサルと類人猿たちは、ほぼ人間と同様に光の三原色を知覚できる視力を備えているといわれている。一方でラノマファナ国立公園に生息している主な果実食動物はキツネザル(lemur)なのだが、このキツネザルの目は赤と緑の色の区別が困難な「赤緑色盲」であるといわれている。とすればこの2つの森の果樹の果物は色に違いがあるのだろうか。
研究チームはこの2つの森林公園に赴き、現地で実っているあらゆる種類の熟した果実と熟す前の果実、そして果実の“背景色”となる木の葉を収集して分光器を使ってそれぞれの色を分析した。そして分析の結果、果物の色は“お得意様”に発見されやすいように最適化されていることが判明したのだ。
ウガンダのキバレ国立公園の果物はレッドベリーに代表される赤=緑スペクトルの色合いで実っており、この森の“お得意様”であるサルと鳥たちに発見されやすくなっている。
一方、マダガスカルのラノマファナ国立公園の果物は、“お得意様”が赤と緑が識別できないキツネザルであるため、青=黄スペクトルの色合いの実をつける果樹が多かった。
加えてラノマファナ国立公園の果物はキツネザルの鋭い嗅覚に訴えるべく、熟す前と熟した後の匂いの差が大きいことも明らかになった。レッドベリーのように熟して赤くなってしまうとキツネザルにはわからないため、この地のベリーは熟しても黄色っぽくなるだけで、そのぶん匂いに差をつけて“お得意様”にシグナルを送っているのである。匂いに変化つけることで「ここにいるよ! 私を食べて!」とキツネザルにメッセージを送っているのだ。
■自然界が持つ“共生”の奥深さ
こうした研究からわかるのは、森の果樹と果実食動物はこの地でお互いのサバイバルにとって都合がよくなるように共に進化してきたということである。したがって、すでに“お得意様”がいる森に別種のサルを放したり、別の果樹を植えつけたりすれば、この絶妙な生態系が崩れて取り返しのつかないことになるだろう。
ウガンダのキバレ国立公園ではゾウもまた“お得意様”であるようだ。“森のゾウ”とも呼ばれるマルミミゾウは、バラニテス・ウィルソニアナというバラニテス属の果樹の“お得意様”である。この果樹はマルミミゾウの存在無しにはサバイバルできないことを研究チームは指摘している。
バラニテス・ウィルソニアナの実が熟すると、まるでしばらく部室に放っておいた運動部員の靴下のような悪臭を発するということだが、この臭いをマルミミゾウは数キロ先にいても敏感に嗅ぎつけ、実が成る木までやってきて、器用な鼻で実をもぎ取って食べるという。
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