犬のお墓にまつわる本当にあった超怖い話 ― 四国「犬神信仰」の祖母が遺した“死の祟り”(川奈まり子)

kawana16-3.jpgイメージ画像は「Getty Images」より引用

 秋山家の敷地は100坪あまり。日本の一般家庭の家としてはどちらかと言えば広い方だが、庭に6つも墓石が並んだら、さすがに異様な景色になるのでは?

 ――私はふと、2017年の5月に訪ねたキューバで見た、とある犬の墓を思い起こした。

 それはアメリカのノーベル賞作家、アーネスト・ヘミングウェイの愛犬たちの墓だった。ヘミングウェイはフロリダ州キーウェスト島からキューバに来ると、コヒマルという漁村にコロニアル様式の白い豪邸《フィンカ・ビヒア(望楼別荘)》を建て、1939年から22年間、そこで暮らした。

 ちなみにコヒマルは名作『老人と海』の舞台であり、キーウェスト島にはヘミングウェイの愛猫の子孫である6本指の猫たちが今もいる。この文豪が多指症の猫を溺愛していたことはつとに知られており、『誰がために鐘は鳴る』の中に《No animal has liberty than the cat , but it buries the mess it makes. The cat is the best anarchist.(動物のなかじゃ猫がいちばん自由を持ってるわけだ。猫はてめえのきたねえものを埋めるからだ。猫が、いちばんりっぱなアナーキストだ)》という名言を遺しているほどだ。(※)

※大久保康雄訳/新潮文庫版『誰がために鐘は鳴る(下)』より抜粋

 だから私は、キューバで4頭の愛犬の墓を見つけて、意表をつかれたように感じたのだった。ヘミングウェイと言えば猫だと思い込んでいたためだ。

 4基の墓碑は横一列に並んでいて、それぞれに名前を刻んだ銘板が付けられていた――BLACK、NEGRITA、LINDA、NERON――。

kawana16-4.jpgヘミングウェイの愛犬の墓。画像は「Wikimedia Commons」より引用

 

■家を見つめる気配

 

 4ヘクタールという広大な敷地にあってさえ、そしてその墓はどれも私でも抱えあげられそうなほど小さかったにもかかわらず、そこだけ墓碑の辺りだけ妙に深閑と静まり返ってそこはかとなく冷気が漂っていた。

 私は秋山さんに訊ねてみないではいられなかった。「どんなお墓だったんですか?」と。

 すると彼はなぜか少しためらって、「変な感じがすると思います」と答えたかと思うと、自嘲するかのような笑い声を立てた。

「変な感じも何も、ハッキリと変な家ですよね! ハハハハハ……。僕が小学校の低学年のときに、お墓を隠すようにツツジを植えたんです。それまでは庭に出るのもおっかなくって、友だちも呼べませんでした。お墓が怖くて。子どもの目には大きく見えましたし……夜になると大型犬が6頭並んで、家の方をじっと見つめているように感じたんですよ」

 6基の墓碑は、どれも幅が子どもの身幅ほどで高さ1メートル足らずだったという。大きな犬が座ったぐらいの大きさだと思えなくはないが、秋山さんは、日没後、家の中から見たときのその光景をこんなふうに説明した。

大きな犬が6匹、こっちを見張っているようでした。三角形の耳を立てた日本犬のシルエットでしたよ! 黒い影なんですけど、犬の輪郭がわかったから、母に、犬がいると報告しに行きました」

 そのとき彼は4歳で、庭の梅が満開だったそうだから、2月か3月のことだった。もう夜になっていたが、会社員だった父と定年退職後に系列の子会社の取締役をしていた祖父はまだ帰宅しておらず、家には母と祖母と2つ下の妹がいた。

「台所で母が夕食を作っていることを知っていたので、台所に飛んでいって、庭に犬がいる! お墓が犬になっちゃった! ……と、こう、興奮して話したところ、母が真っ青に……。今でも憶えているんですが、本当にサーッといっぺんに血の気が引いて幽霊みたいな顔色になって、そういうことを言っちゃダメだと大声で言ったものだから、てっきり叱られたと思って泣きながら、でも犬がいるんだもん!と……。これが私のほとんど最初の記憶です」

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