犬のお墓にまつわる本当にあった超怖い話 ― 四国「犬神信仰」の祖母が遺した“死の祟り”(川奈まり子)

kawana16-2.jpgイメージ画像は「Getty Images」より引用

■墓石の並ぶ家

 

 彼によれば、秋山家は昭和30年代にそれまでいた大阪府から神奈川県藤沢市某所に移ってきた。高度経済成長期の頃のことで、東京の通勤圏内である東京近県の宅地開発が盛んだった時期だ。昔は雑木林ばかりだったと秋山さんは父から聞かされていたが、彼自身が物心つく頃には家は住宅街に呑まれていた。家の敷地は100坪少々で、2階建ての母屋と、後に駐車スペースの上に建てた離れ、植木に囲まれた芝生の庭があった。

 ちなみに転居の理由は一家の大黒柱だった祖父の転勤だったそうだ。祖母は専業主婦で、子どもは長子である秋山さんの父と長女と次女。しかし、2人の叔母を含めて、皆、亡くなっている――。

「2002年頃までご両親がそこに住んでいらしたんですよね? ご両親もお亡くなりに?」
「はい。立て続けに亡くなってしまいました。私は、父が祖父の遺言を守らなかったせいだと信じています。両親だけじゃなく、2人の叔母も、犬の祟りで死んだんじゃないか、と
「犬の祟り? 6基、お墓があるとおっしゃいましたよね」
「ええ。祖母が大の犬好きで、引っ越してくる前から犬を飼っていたそうです。でも、私が赤ん坊のとき、最後の1頭に噛まれて、泣き声で飛んできた母が私から引き離そうと箒の柄で叩いたら打ちどころが悪くて死んでしまい、それから飼うのをやめたと聞いています」

 秋山さんが赤ん坊の頃――彼は現在50歳だから、ちょうど今から半世紀前の1969年前後――、結婚した女性は「家庭に入る」つまり専業主婦になることを周囲に期待されていた。当然視されていたと言ってもよく、秋山さんの母も結婚と同時に会社勤めを辞めて専業主婦になった。

 ところが秋山家では祖母が家事を取り仕切り、財布の紐を握っていた。

「母は祖母と折り合いが悪く、ずいぶん苛められたと言っていました。祖母は母が犬をわざと殺したと疑ったそうです。私に怪我がなかったから、余計に……。母は、犬が私の腕に噛みついているのを確かに見たのだと祖母に訴えたけれど信じてもらえなかった、と。そのときは冬で、私は厚地の上着を着た上にキルトや毛布を重ねて掛けて、庭に置いた乳母車に乗せられていたということなので、犬の歯が肌まで届かなかっただけかもしれませんが……。祖母は激怒して、母に赤ん坊を置いて実家へ帰れと言ったとか……」

 結局、父と祖父がとりなして、事を円く収めた。

「まあ、円くと言っても、恨みは残りましたよ。祖父は、もう揉め事は御免だと思ったのでしょう。今後は犬を飼わないと宣言したそうです。すると祖母は、母を睨みつけて、いつか大変なことになると言って脅した、と。これは10年前にあの家を手放す直前に両親から聞いたんですが、祖母は四国の犬神信仰がある地方出身で、だからというわけではなかったかもしれませんが、犬を飼うことに異常に執着していたそうです。家にあった六つの墓のうち四つは、大阪の家から墓石ごとわざわざ運ばせたものでした」

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