犬のお墓にまつわる本当にあった超怖い話 ― 四国「犬神信仰」の祖母が遺した“死の祟り”(川奈まり子)
「何かあったの?と母に訊ねると、別に何もなかったと答える。なのに、様子はおかしい。気になるから、こちらもまた、変な夢でも見たのかと質問したら、それには答えず、私がタロウに噛まれたときの話をしはじめました」
「タロウ?」
「犬の名前です。そうだ、言っていませんでした。墓にはそれぞれ犬の名前が彫られていました。白、権太、コロ、茶目、チビ、タロウ……と」
私はそこでヘミングウェイの犬の墓を思い起こして、秋山さんにキューバで見たその景色について話した。あの墓にも犬の名前が記されていた。
「へえ……。面白いですね。でもヘミングウェイは猫好きだったんですよね? 猫のお墓は無いんですか?」
「ええ。ガイドさんの説明では、猫たちは庭のそこかしこに適当に埋められているようだということでした。猫は最高のアナーキストだから自分が埋まるときも自由なのだと言って笑いを取っていましたっけ」
「なるほど。そうしてみると、犬の方が人に近い気がしますよね」
■母、そして父の死
2002年の春、藤沢の家が完成した。しかし両親そろってそこに住んでいたのは半年足らずで、まず、母が庭で転んで意識不明の重体で入院。脳挫傷と診断され、すぐ手術を受けたが、そのまま帰らぬ人となった。
「タロウの頭を箒で殴って死なせてしまったその庭で、頭を打ったことが致命傷となって死んだわけです。私は恐ろしくなって犬の祟りではないかと父に言いました。すると父も同じことを考えていたようで、もうこの家には住みたくないと……。そこで叔母たちも交えて話し合って、家を貸すことになりました。新築みたいなものですし、借り手はすぐにつくだろうと思っていました」
ところがなかなか借り手がつかない。
「父はその間、独りで暮らしていたんですけど、ある日、突然、父の会社から私の携帯に電話がかかってきて、父が出勤してこない、と。家に行ってみたらもぬけの殻で、地元の警察署に届けましたが……妻に先立たれた62歳の会社役員が失踪したと言うと、警察ではすぐ自殺を恐れるものなんですね……。警察署で自殺の2文字を聞いた途端、私も厭な予感がしました。母が死んで、父は気落ちしていました。衝動的に自死しても不思議ではない状況でした」
それから3日後は週末で、会社の休みを利用し、秋山さんは妻と連れだって再び藤沢の実家を訪れた。父から合鍵を預かっていたので、鍵を開けて中に入ると、3日前には感じなかった微かな異臭が漂っていた。
このまえ来たときにはざっと各部屋を探しただけで、トイレまでは見なかった。もしやと思って1階のトイレを確かめると、内側から鍵がかかっている。
そのとき、秋山さんはトイレのドアに獣の爪で引っ掻かれたような跡があることに気がついた。ドアの下半分に集中して、深い掻き傷が何条も戸板に刻まれていた。
「オオカミ……と父が話していたことを思い出して、ゾッとしました。ノックしたけれど返事はなく、閉まったドアの隙間に鼻を押し付けるとひどい臭いがしました。異臭の源はここだ、ということはこの中で父が死んでいるに違いないと思って、110番しました」
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2024.10.02 20:00心霊犬のお墓にまつわる本当にあった超怖い話 ― 四国「犬神信仰」の祖母が遺した“死の祟り”(川奈まり子)のページです。犬、墓、怪談、川奈まり子、情ノ奇譚などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで