鬼畜系の弁明 ― 死体写真家・釣崎清隆寄稿「SM、スカトロ、ロリコン、奇形、死体…悪趣味表現を排除してはならぬ理由」
鬼畜系は80年代サブカルチャーとしての悪趣味の換骨奪胎である。我々にとっては、“古き良き”サブカルチャーと誉めそやされる80年代の「節度ある」、「慎み深い」悪趣味こそが打倒の対象だった。ロリコン雑誌『Hey! Buddy』(白夜書房)の青山正明氏が1995年に鬼畜系の総本山『危ない1号』(データハウス)を創刊したように、白夜書房/コアマガジンが同年にアウトロー雑誌『BURST』を創刊したように、90年代における鬼畜系は80年代までのエロ本文化の壁を突き破り、広く一般大衆に問うかたちで表現の限界を追求するという稀有なムーブメントだったのだ。
90年代とは、 そのまま放っておくと漸次的にどんどん縮んでいくだけだった表現 の自由の一部が、奇跡的に拡大した時代であり、80年代の縮小再生産になることを拒否した、90年代という時代なりの息苦しさに対する異議申し立てだったのである。また鬼畜系とは我々の自覚的抵抗によって抉じ開けた表現であった面を強調したい。
と同時に鬼畜系は世界的なバッド・テイストのブームの流れと並走したムーブメントであり、アンドレス・セラノやジョエル・ピーター・ウィトキンといった写真家が死体を被写体に選んだ時代であった。そしてさらに我が国において独自の進化を遂げて突出したカルチャーでもあった。
『BURST』ほど鮮烈なビジュアルを提示したサブカルチャー雑誌は世界に存在しない。『BURST』創刊の2年後の1997年から2015年まで刊行された英国のオルタナティヴ雑誌『ビザール』(デニス・パブリッシング)も死体写真をカラーで掲載し、私の作品が扱われたこともあるが、読み物はともかくビジュアルは『BURST』に比べて見劣りする出来栄えだった。映像文化に関しても、V&Rプランニングやアロマ企画のゴア・ポルノ、鬼畜系AVは世界的に絶大な支持を得た。
むろん私はここで倫理の問題を敢えて論じる気はない。ただシャルリー・エブド事件を見よ。二〇一五年、イスラム教で偶像化が禁じられている預言者ムハンマドを戯画化した風刺新聞社『シャルリー・エブド』をイスラム過激派が襲撃して編集長や漫画家など十二人を殺害した事件に対して、表現の自由を守る行進にフランス全土で370万人以上が参加した。表現の自由とはかくも神聖な権利であることを明記したい。
ムハンマドを戯画化するような風刺漫画(カリカチュア) のイデオロギーについてはここで云々しないが、あのような明らかなヘイト表現にしても尊重しなければならないと信じる。と同時に私はジョン・ウォーターズが言う「good bad taste(良き悪趣味)」に必要なものは批判精神でなく、美意識だと思っている。美意識によって低劣な偏見を打破すべきだと信じている。私はポリティカル・コレクトネスで救われる人間など、この世に存在しないと思っている。
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