鬼畜系の弁明 ― 死体写真家・釣崎清隆寄稿「SM、スカトロ、ロリコン、奇形、死体…悪趣味表現を排除してはならぬ理由」

 当事者たちはその表現がどぎつく純粋であったがために、今になって弁明の言葉を持っていないのが実情だ。それでも、どんなことがあってもバカの一つ覚えのように「表現の自由」を叫び続けねばならないのである。

 しかしそれは無理だった。鬼畜系の担い手自身がどいつもこいつもどうしようもなくシニカルでスノッブだった。また当時から鬼畜系について苦々しく思っていた者であったなら、まさにその時代において叫ぶべきだった。取りも直さず90年代はものが言えた時代だったからだ。

 鬼畜系の批判者の矛先は往々にして、実作者やその表現よりむしろ、時代に踊ったディレッタントや時代そのものである。あたかも「人権意識」の高い現代人が戦前の日本を遡及して叩くがごとき不自由な議論である。彼らは己の責任は棚に上げて、死体写真を見るな。死体写真を見るようなやつはきちがいだ、とぬけぬけと口走るのである。こんなに人間性を冒涜する話はない。卑怯で残忍な、スノビズムの極致だ。

 青山氏も村崎百郎氏も時代の被害者ではないぞ。殉職者には敬意を払え。

 サブカルチャーの担い手がポリティカル・コレクトネスを推進するようになったら世も末である。リベラル・ファッショの尖兵に堕したことに恥を知ってもらいたい。かつて人権意識の低かった者たちがその幼い精神性のまま時代の圧力に迎合して無邪気に鬼畜系を叩くことが恐ろしいのだ。

 たとえどんなに苦痛を伴おうと、我々は情報の自由によってのみ正常化していく。過激な表現を排除してはならないのだ。

 我々は世界から、武の放棄という物理的な弱さはもとより、 建前に対して抵抗できない表現の弱さをこそ、 実は嘲笑されているのだ。もはや本音の存在も軽く曖昧になり、 神羅万象を近視眼的にしかとらえることができない、 神話を冷笑するしか能がない弱さをこそ侮蔑されているのだ。

 私はこの去勢された脆弱な社会に対して、今こそ敢えて「メメント・モリ」を叫ばざるを得ない時代が来てしまったのではないかと感じている。

文=釣崎清隆

死体写真家として知られ、ヒトの死体を被写体にタイ、コロンビア、メキシコ、ロシア、パレスチナ等、世界各国の犯罪現場、紛争地域を取材し、これまでに撮影した死体は1,000体以上に及ぶ。写真集『DEATH:PHOTOGRAPHY 1994-2011』(Creation Books)、著書『死者の書』(三才ブックス)、DVD『ジャンクフィルム』など多数。近著に『原子力戦争の犬たち 福島第一原発戦記』(東京キララ社)がある。

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