身長2m以上の白いドレスの巨大女が佇む、本当にあった怖い話 ー 『でる家』川奈まり子の実話怪談!
気づいていないなら、それでいい。怖がらせたくなかったし、特別な霊感がある男だと思われるのも厭だったのだ。
霊感がある友人が、以前この家に来たとき、女性の霊もいると言っていたことを聡さんは思いだした。
――子どもと60代ぐらいの男性と女性がいると言っていたっけ。
では、現れていないのは、男性の霊だけということになる。
聡さんは、再び、居間と仏間を引き戸で仕切ることにした。ただし、かつてのように閉めっぱなしにはせず、気分に応じて、開けたり閉めたりするのである。
それから間もない、ある日のこと。
彼は明け方の4時ぐらいに金縛りにあいながら目が覚めた。
――ああ、またか。
仏間で寝ても、あれ以降、たまに金縛りにかかるようになっていた。いつも南無妙法蓮華経と胸の内で唱えると自然に解けた。
もう慣れていたし、金縛りになったからといって普段はそれ以上の異変が起きるわけでもなかった。
だから初めは落ち着いていたのだが、突然、廊下側の戸が細く開いて、そこから浴衣を着た小さな男の子が飛び出したので、心臓が止まるかと思うほど驚いた。
3、4歳の元気そうな子で、可愛らしい顔立ちをしている。浴衣は白地に藍染めで柄が入ったものに、兵児帯を締めている。帯のタレと浴衣の裾をヒラヒラさせながら、その子は蒲団の周りを走りはじめた。
ピタピタと畳を叩く、湿っぽい裸足の音まで聞こえる。障子越しの差す暁の薄明が艶々したふくらはぎを照らし、浴衣の布を透けさせた。
呆気に取られているうちに、男の子は聡さんの蒲団の周囲を二周したかと思うと、引き戸を小さく開けて、隙間から滑り込むように居間の方へ出ていった。
姿が見えなくなった途端に、金縛りが解けた。
そこで起きあがって居間との境の引き戸と廊下側の戸をあらためて見ると、どちらも幼児が擦り抜けられるほどの隙間が開いていた。
床に就く前に、いずれもしっかり閉めたのだが。
引き戸を大きく開けて居間に入ったが、子どもの姿はなく、居間にある廊下側のドアは閉まっていた。
――消えた!
生きている普通の子どもと変わらないように見えたのだが……。
あの子ならば、怖くない。
そう聡さんは思った。
そしてこれ以降、この家に居ついている小さな男の子については、幽霊ではなく、座敷童のようなものかもしれないと考えるようになった。
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