本当にあった職場の超怖い話「忌み地に就くべからず」― 川奈まり子の実話怪談
作家・川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。
【十八】忌み地に就くべからず(前編)
東京には寺町が多い。私が住む港区にも寺院が密集している地域があって、そのうちのひとつが芝・三田辺りの寺町だ。
東京タワーの東側に広がる広大な芝公園の南端近くに芝丸山古墳がある。寺町は古墳から南方へ帯状に延びているようだが、初めのうち、寺はまばらで、三田4丁目辺りで急に“寺密度”が高くなる。
そもそも芝公園自体が大本山増上寺を懐深く抱いているから、公園の中から南の一帯が寺町だと見做すことも出来そうだ。“寺密度”は南下に従って再び下がりながらも、ある程度の密度を高輪地区まで保っている。
桜田通りや第一京浜といった幹線道路に挟まれたエリアであり、こうした大通り沿いに建ち並ぶオフィスビルや現代的なマンションを眺めていると(さらに位置によっては東京タワーにも目を奪われてしまうために)、ここに寺町があることがわからない。しかし実はこの界隈は、実は一歩路地に入れば寺だらけなのだ。
冒頭、「東京には……」とさも東京が特別なような書き方をしたが、実は寺町は全国各地にある。城下町の外縁に今も残る、昔の都市計画の名残なのだ。城下町と外との境界に造られた理由は、敵に攻められた際の防波堤とも、聖域を境界に置くことで外部の穢れが城に及ばないようにする意図があったとも言われるようだ。
芝・三田界隈の寺町は、もっぱら、江戸城の二ノ丸拡張工事のために移転させられた八丁堀の寺院によって形成されている。二ノ丸拡張工事は寛永13年(1636年)のことだから、それから380年以上経ったことになる。
――とある外資系企業がこの地で営業を始めたのは、今から約15年前(2004年)のことだった。80年代に建てられたビルに大規模な改装工事を施して1、2階と最上階を占有し、秋のリニューアル・オープンに時期を合わせてスタートアップのメンバーを新たに揃えた。
その中に、当時30代の塔山一斉さんもいた。
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