本当にあった「別れた男」のゾッとするほど怖い話! 執念、霊、とぐろを巻く蛇…川奈まり子の実話怪談「再会」
転機が訪れたのは、2011年の元日。正月の挨拶に来た健朗が家に居座るという珍事が起きたのだ。
帰ってくださいとお願いしたり、父が説教したり、健朗の親に来てもらったりしたが、とにかく家から出ていこうとしない。
警察に通報したかったが、ご近所の目があるからと母に止められた。
父に頑張ってもらいたかったけれど、父は、腕力に物を言わすのはおろか声を荒げることすら思いつきもしない優しい性質な上、体も声も小さく、説教しても迫力がなかった。
結局、健朗は5日まで家に居座った。
その間、夜は居間の炬燵で眠り、喧嘩を売るでも暴れるでもなく、むしろいつもより大人しく、いっそ朗らかですらあった。
しかし、ここに居るのが当然という態度でいられると、困惑を通り越して不気味に感じた。気持ち悪いのだ。どうしても我慢ができないほどに。
だから、こちらが家を出ていくことにした。
母方の伯母が東京に住んでいて、社員数人の小さな会社を経営していた。幼い頃から、会うたびに可愛がってくれた伯母さんだ。
就活中にうちに遊びに来たときには、本気ではなかったと思うが、「うちの会社はどう?」と言ってくれた。
この伯母にダメもとで相談してみた。
そうしたところ、伯母の会社では、経理と事務を担当していた社員が2月いっぱいで辞めるので、ちょうど代わりの人を探していたところだったことがわかった。
なんと、好運なことに、こちらはずっと経理部で働いてきたのだ。
健朗にバレないように準備を整えた。
正月以降、彼はときどきふらりと家に来て居座るようになっていた。
中途半端に懐いた野良猫のようだった。餌を食べて、炬燵で丸くなる……。
その頃にはもう、健朗が人間の男のようには感じられなくなっていた。
セックスは、1年近く前から、ずっとしていなかった。
強引に求められたことはない。そのせいで、健朗という男がますます理解できなくなった。何を欲しているかわからないのも、彼の厭な点だった。
引っ越しの当日は、郡山駅の新幹線のホームまで、両親がついてくることになっていた。両親と一緒に駅ビルのレストランで昼食を食べてから、新幹線に乗る予定だった。
でも、家を出発する時刻になって、父が玄関を開けたら、門のところに健朗がいたのだ。
父が引き攣った顔でこちらを振り向いただけで、何が起きたか悟った。
それと同時に、今日で終わりにしようと決心した。
表に出て、勝手に入ってこようとする健朗を、門の外まで、黙ってグイグイと胸で押し返した。
途中で、どこへ行くのか訊ねられた。
それには答えず、すっかり門から出てしまってから、「もう会わない。今日で終わり。ここから出ていく」と告げた。きっかり目を見据えて、である。
健朗は何も言わなかった。
3人で車に乗って出発したときも、門の前に呆然と立ち尽くして、こっちを見つめていたけれど――。
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2024.10.02 20:00心霊本当にあった「別れた男」のゾッとするほど怖い話! 執念、霊、とぐろを巻く蛇…川奈まり子の実話怪談「再会」のページです。3.11、元カレ、怪談、川奈まり子、情ノ奇譚などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで