【20年目の世田谷一家殺害事件】犯人は死んだのか、島根切断遺体事件や自殺調査も…最凶未解決事件「迷宮の歪んだ真実」(後編)

■死者の中から犯人が突如現れることもある

 空気が明らかに重い。事件発生から20年が経過しようとしているが、現場となった宮澤さん宅の周辺一帯は、今もなお異質な空気が充満しているような錯覚を覚えさせられる。少なくとも、そんな雰囲気に満ちている。それが戦慄によるものか、なんらかの違和感から発せられるものなのかは分からない。だが、肌に纏わりつく空気が、明らかに違うのだ。

 警視庁は、事件に少しでも接点を持つ人物をしらみ潰しに捜査してきた。殺害された宮澤みきおさんや泰子さんと仕事上の関係があった人、自宅周辺住民などといった交友関係、さらには事件発生日に現場近くの千歳烏山駅や成城学園前駅などを利用した人たちの切符類を回収して、指紋を調べるといった捜査も行っている。

特別捜査本部が置かれた成城警察署

 だが、捜査を尽くしても、その捜査網から漏れてしまった部分も浮かび上がってきた。それが、犯行現場の近くにある医療施設や、近隣に出入りしていた工事業者などだった。それらを十分に洗い切れないまま、時間の経過と共に、ますます聞き取りは困難を極めていった。

 遺留物や証拠類がこれだけあるにもかかわらず、容疑者は一向に浮上してこない。歳月が経てば経つほど、それにより「そもそも、犯人はまだ生きて日本国内にいるのか、それとも既に死んでしまったのか」という疑問に繋がっていく。

 もちろん、警視庁は事件直後に出国した人物に関しても捜査を行った。だが、そこには必然的に限界がある。なぜなら、彼らのDNAや指紋が残っていないからだ。そのうえ、出国した人物を把握したところで、出国者全員と現場に残された証拠類を照合するのは、不可能に近い。

 結局、判明したのは、現場に残されたDNAや指紋が、警視庁内にある犯歴データベースの中の誰とも一致しなかったことだけだった。つまり、「犯人が生きているのか否か」については、「生きているかも知れないし、死んでいるかもしれない」という状況が続いてしまっているのだ。

 事件から100年でも経過していれば、「犯人は既に死亡している」と言えるだろう。だが、発生から20年である。しかも、犯人像を「15歳から20代くらい」と見立てたことからも、歳月の経過だけで犯人の生死を推測することはできないのだ。

 世田谷一家殺害事件を専従捜査する刑事たちは、その時々に発生した殺人や強盗などの事件にあたる捜査員と違い、事件解決の経験に接しないまま、捜査を続けていかなくてはならない。それは、未解決事件の一つ「スーパーナンペイ事件」の捜査にあたる専従班も同じで、「もしかしたら犯人は既に死んでいて、逮捕できないかもしれない」という思いを抱きながら、捜査を続けなければならないのだ。これは大変なことだ。

 実際にこういった事例もあった……。

 今から11年前の2009年。島根県立大1年の平岡都さん(当時19歳)の切断遺体が広島県の山中で発見された。しかし、容疑者が特定されないまま、事件発生から7年が経過した。そして、2016年12月。島根・広島両県警による合同捜査本部が、会社員・矢野富栄容疑者(当時33歳)の犯行と断定したのだ。

 だが、両県警合同捜査本部は、矢野容疑者を逮捕しなかった。いや、できなかった。矢野容疑者は、遺体発見直後に交通事故を起こして死亡していたのだ。

 結果、事件は容疑者死亡のまま書類送検され、捜査は終結した。事件直後の捜査で浮上しなかった人物が、なぜ容疑者として断定されたのか。決定的だったのが、矢野容疑者の遺品のデジタルカメラとUSBメモリだった。削除されていた画像を復元すると、殺害の凶器として使用された包丁や遺体が映し出されたのだ。

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