『君の名は。』やジブリ映画が大ヒットした“本当の理由”が判明!! 現代と過去の架け橋となる民俗学(畑中章宏インタビュー)

畑中  日本にも古来から八百万の神やアニミズムがありました。近世から明治政府に移行する際、アマテラスの子孫である天皇を中心とした帝国を目指します。古事記、日本書紀に登場する神様を中心としたことで、民間信仰の神様や精霊は、明治時代にないがしろにされるんです。

 そんな時代に、農商務省に勤めていた柳田国男は、全国の農村事情を見て回ります。そして農村を発展させるには、彼らの信仰や暮らしを見つめなければいけないと考えました。そこで、民俗学が始まるんです。柳田は近代化される以前の最も典型的な民話を遠野に見たんですね。

ーー日本の民俗学の生まれた経緯がわかりました。柳田国男の民俗学が生まれて、その後、他国と比較されたり、枝分かれしていったんですね。

『君の名は。』やジブリ映画が大ヒットした本当の理由が判明!! 現代と過去の架け橋となる民俗学(畑中章宏インタビュー)の画像3
関西弁で読む遠野物語』(エクスナレッジ)より抜粋

畑中  柳田国男に対する批判として用いられることもあるんですが、「一国民俗学」という言葉があります。民俗学には、日本人のアイデンティティを求める性格があります。

 他国との比較では『遠野物語』にオシラサマというのが出てきます。曲り家に住んでいる父と娘と馬。その娘と馬ができてしまい、父親がふたりを殺すと娘が馬の首に乗って天に昇っていくという話です。この馬娘婚姻譚は、中国に原型があるとされています。一方、河童については中国に似た話がたくさんあります。こういった地域を比較する学問は比較民族学といいまして、『河童駒引考』(石田英一郎著、岩波文庫)という本が知られています。

 私の専門は比較する方面ではなく、日本の民間信仰から今どのようなものを読み取るか、民間伝承に潜在する心情、感情が現在も継承されているか、という点です。

■宮崎駿・新海誠の作品は民俗的テーマだった!?

ーーでは、畑中さんが専門とする民俗学は、現代と過去の架け橋のような部分なんですね。

畑中  柳田国男作品の中にも『遠野物語』のように妖怪、もののけを中心に扱ったものがある一方、目に見える衣食住の世界を扱った『木綿以前の事』(岩波文庫)のような本もあります。

 また、『明治大正史 世相篇』(講談社学術文庫)という、近過去にどんな流行があったのかを考察する本もあります。明治、大正時代には西洋から新しいものが入ってきて、ガラッと文化が変わる。そのとき、人々の習慣、心のありようはどうなったのかを書いたものです。

 僕がやっているような民俗学はオリジナルではなく、もう柳田国男がやっていたんです。わりと社会学に近い領域ですね。ただ民俗学は数値化、計量化できない心のありようを扱います。

 たとえば、ひとつの流行に対して、経済学や経営学、社会学はマーケティング的な分析で数値化ができます。ただ、「それを選んだ民衆が『前に経験したあるものと似ているんじゃないか』と感じている」という事象自体は、数値にはできないんです。例えば、アマビエなどはまさにそうです。

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アマビエ 画像は「Wikipedia」より引用

ーー納得しました。畑中さんが研究している分野が伝わったと思います。それゆえ、現代の文化である新海誠やジブリの映画と民俗学のような論じ方ができるということですね。

畑中  新海誠監督『君の名は。』『天気の子』、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が世界レベルでヒットするには理由があります。そこに共通するのは、民俗学的なテーマを扱っているという点なのです。

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