人間のテレポーテーション技術が完成しても絶対に使いたくないヤバい理由が判明

画像は「Big Think」より


 なぜなら、テレポート先の私のクローンの方は私が私のままテレポートしたと確信していると考えられるからだ。先ほどの例で言えば、私のクローンの方も「私には私と瓜二つの人間が見える」と思うはずだからだ。クローン本人が「私ではない」ということはないだろうから、世界に齟齬は生まれない。ただ世界に現れない何かが痕跡を全く残さず消え去った可能性が思考されるだけである。

 そして、この消え去ってしまう何かはモノにさえ宿っている。たとえば、愛する人がいつも身につけていた手袋。それには故人が確かに触れていたという実感があるからこそ愛おしいわけだ。たとえユニクロの手袋だとしても、それは店頭に並ぶ無数の商品とは一線を画した存在である。この思い出の手袋をテレポートした先に現れるものは、本当に愛する人が触れていたあの手袋と同じだろうか? 物理的に見れば全く同じだろう。故人の匂いや付着した細胞の破片まで瓜二つだ。ただ大きな違いは、その手袋に故人との繋がりが感じられないだろうということだ。世界には現れない何か、“これ性(haecceitas)”ともいうべき何かが失われたのである。

 2013年英レスター大学は、人間の転送可能なデータは、各細胞のゲノムを構成するDNAペアで構成されていると推論、当時のコンピューティング技術では、人間1人分のデータを転送するには4.85×1015年かかるとされた。これは宇宙の年齢よりもはるかに長い。ただ、それも技術的な問題であり、理論的にはテレポーテーションは可能だとされる。2014年に量子テレポーテーション実験を成功させたオランダ・デルフト工科大学のロナルド・ハンソン教授も、「私たちが特定の方法で結びつけられた原子の集まりに過ぎないと考えるならば、原理的には、ある場所から別の場所にテレポートすることは可能なはずです」と指摘している通りだ。

 だが、たとえ人間のテレポーテーション技術が筆者の生きているうちに完成したとしても、絶対にそんなものは使いたくない。ただ、先述したようにテレポーテーションは世界の方に矛盾を生み出さないから、使いたい人は使ってもらって結構。それで世界は(私も)何も困らないのだから。

 

参考:「Big Think」、ほか

TOCANA編集部

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